標的14 ページ17
それは眠ったままの風香が大切そうに両手で持っている懐中時計。
開いていた蓋の内側に嵌った写真を何気なく見た僕は、すぐに見なければ良かったという後悔と罪悪感が生まれるのを感じた。
その写真に写っているのは、栗色の髪の女性とその腕に抱かれた同じ色の髪の3歳くらいの男の子、その傍らに寄り添うように立つ白銀の髪の男性と･･･男性に抱き抱えられた白銀の髪の女の子。
風香と、風香の家族の写真に違いない。
二年ほど前に彼女の事を調べた時、唯一手に入れられた戸籍の情報を思い出す。
彼女の両親と弟は、今から11年前の同じ日に死んでいた。
風香は、家族を一人残らず失っていたんだ。
この写真は、きっと最後の家族写真なんだろう。
･･･僕は、彼女が家族を失ってからのことを聞いたことがない。
並盛に来るまでの間、何処で何をしていたのか。
いくら調べても風香の過去の記録は出てこない。
まるで、何者かが「過去を調べるな」と言っているようだった。
でも、これだけは確かだとはっきり言えることがある。
───風香は、何か『秘密』を隠している。
そして、それを知れば、風香は僕の元からいなくなる。
そんな気がして、いつしか調べるのを止めてしまった。
いつの間にか風香は僕に無くてはならない存在になっていて、
『風香を失うのが“怖い”』
そう思うようになってしまった。
だから、
君が何を背負っていても、
何を隠していても、
僕は受け止めよう。
それほどまでに、初めて会った時、
瑠璃色の瞳に淡く、けれど確かに灯っていた炎のような光に
僕は焦がれている。
風のように自由で儚くて、
いつ僕の腕をすり抜けて行ってしまうか
わからないけど、
せめて、あと少しだけ、傍にいて欲しい。
そうすれば、この感じたことのない
“恐怖”というものを乗り越えることが。
───自分の気持ちを伝えることが
出来そうだから。
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作者名：水鏡 | 作成日時：2018年8月13日 10時
