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会社の同期で同僚。
決して近くも遠くもなかったそれが崩れ始めたのは、入社してしばらくの頃だった。
横暴だとか無理やりだとかいった気の強いタイプではなく、寧ろいつも後ろの方にいて会社では目立たない人。
だから話すようになったきっかけもよく覚えていないし、特別仲が良かった覚えもない。あくまで同期としての関係を築いてきたつもりだ。
それが気づいたら休憩や帰りが"偶然"重なることが増えて、教えた覚えもない誕生日に物を贈られるようになって、資料を受け取った時に彼の手から私と同じハンドクリームの匂いが香るようになって……
「……ねぇ、この人とどういう関係なの」
会社を辞めても尚、こうして家を訪ねてくるまでになっていた。
「……家の住所、話したことありましたっけ」
「いつも一緒に帰ってたじゃん。会社辞めてもう忘れちゃった?」
「……確かに、途中の駅まで
元々いつも顔色が悪かった記憶だけど、今の彼はそれに輪をかけて酷い顔をしている。
目元の隈は言わずもがな、髪も少し乱れていて何より先程から全く目が合わない。
玄関で近づいた時に一瞬香ったお酒のツンとした匂いに、より身体が強ばってしまう。
「それよりこの人、何なの?」
「だから、ただの知り合いです」
「じゃあなんで"この日"から家に帰らなくなったの?次の日には会社も辞めてた。全部この人のせいじゃないの?」
トントン、と詰めるように指で叩いた液晶画面に映されるのは紛れもなく私と世一さんで。
極めて画質は悪いが、知る人が見ればこれが潔世一であることはすぐに分かるだろう。
「ただの知り合いで、こんな風に手握られるの?
俺、車の中に連れ込まれるまでぜんぶ見てたよ」
「……偶々、久しぶりに会っただけで。最近は実家に帰省してたから、会社を辞めたのもそれのせい、で……」
苦しすぎる言い訳に段々と声もしぼんでいく。
あんなにSPが居たって全然意味ないじゃないか。
マスクとか帽子くらい付けてよ。世一さんのバカ。
弁明は何も出来ないのにここに居ない人達への怒りは尽きない。世一さんに話す事がまた増えてしまった。
……まだ、日本にいるよね。
勝手に海外行ったりしてないよね。
今まで逃げてきた分、伝えなければいけない事が沢山あるのに。
だけど今目の前に居るのもまた、私が散々逃げて目を背けてきた人である事に間違いなくて。
きっとそれは、もっと早くに気づくべきだった。
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YUY - 久しぶりに見たけどやっぱめちゃすち……🫶 (12月10日 1時) (レス) @page43 id: 2b504e2cbc (このIDを非表示/違反報告)
放浪者の神の目になりたい(プロフ) - 潔くんの小説…!!ありがとうございます…応援してます…!! (9月29日 22時) (レス) id: 8d6a7142fc (このIDを非表示/違反報告)
アアアアア??! - 凄く好きです! (9月8日 21時) (レス) @page25 id: fbc26f140f (このIDを非表示/違反報告)
りす(プロフ) - うわぁ、すっごく好きです、。めっちゃ気持ち悪い顔しながら見てます。めっちゃ好きなんで頑張ってください! (8月22日 22時) (レス) @page42 id: 6cf6d64f42 (このIDを非表示/違反報告)
YUY - んんんん気になるなあああ続きがあああすごくいいところで切ってくださる…あいらーびゅー… (5月7日 22時) (レス) @page37 id: 2b504e2cbc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀬川 | 作成日時:2023年2月5日 11時