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結論だけ言えば、ダメだった。
先ず。シンプルに舌を噛み切ろうとした。
すると何処からか飛んで来た呪霊に腕を噛まれ、あれよという間に意識はシャットダウン。
気がつけばベッドの上で寝ていた。
隣で本を読んでいた傑に「あ、起きた?」なんて言われて終わった。
『…何あの呪霊』
『睡魔みたいなやつ』
『私が何をしたっていうの』
『君が死のうとしたら眠らせるように命令してある。あんなのだけど一級だよ』
『いじわる』
『次は無いからね』
『うん』
次に。カトラリーで喉を突こうとした。
結果は同じ。
気がつけばベッドの上で寝ていた。
隣には“人間失格”を読む傑がいる。自虐ネタだろうかと真面目に考えた。
『傑、おはよう』
『おはよう。次は無いって言った次の日に決行するとは思わなかったよ』
『やった。褒めらりた』
『褒めらりてないよA。その潔さは嫌いじゃないけどね、もっと他のことに活かそうとか思わないかな』
『フットワークの軽さって大事』
『命の重さはもっと大事』
『傑が言う?』
『私だって言いたくなかったよ』
その日はとても抱き潰された。二度とやるもんか、とも思いに思った。
おまけにその後数ヶ月は食事が「あーん(はぁと)」しか許されなかった。これは意外と快適だったけど。
「喉元過ぎればなんとやら」って言うよね。
人間だもの。
私は未だ失格してないから。
最後。割ったDVDの鋭い断面で、首元の大動脈を突き刺そうとした。
呪霊が飛んで来る瞬間に術式を使う。
呪霊の“呪い”が解け、姿形が無くなり、質量を伴わない「感情」だけになる。
勝った、と思った途端。
額に激痛が走った。
『…………?』
『おはよう』
日本人なので『おはよう』と返す。
このルーティンにはもう驚かない。
傑は“吾輩は猫である”を読んでいた。人間辞めるのか、と真面目に考えた。
『次はどうやったの?』
『もう教えないよ。君がここまで生に無気力とは思わなかったからね』
『訂正、死に積極的なの。意義を求めます』
『却下します。すごくどうでもいい』
なぁに、愛しい恋人ってんなら興味持ってよ。
と言ったら傑は調子乗るので言わない。
傑の情緒は五歳児並みにうねってるのだ。言うだけカロリーの無駄。……
…私の記憶はそこまでである。
ところで、世の中には「仏の顔も三度まで」という言葉もある。
傑は仏じゃないが。
暗転。
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のんのんた(プロフ) - ワードセンスがピッカピカですらすら読ませていただきつつ、はちゃめちゃ笑わせていただきました…。お話の雰囲気本当に好きです…。 (2022年12月8日 23時) (レス) id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 面白かったです!素敵な作品をありがとうございます! (2022年3月3日 12時) (レス) @page10 id: 8c70df45d4 (このIDを非表示/違反報告)
ミントティー(プロフ) - み り ん 。さん» 書いていてとても楽しかったです。読んで頂きありがとうございました! (2022年2月28日 16時) (レス) id: 38ab85e584 (このIDを非表示/違反報告)
み り ん 。(プロフ) - 完結おめでとうございます!!このような神作を作っていただきありがとうございました!!お疲れ様です!! (2022年2月28日 16時) (レス) @page10 id: 2f94ade894 (このIDを非表示/違反報告)
ぴ(プロフ) - とても面白かったです。完結おめでとうございます。 (2022年2月27日 22時) (レス) @page10 id: 69206d8b84 (このIDを非表示/違反報告)
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