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気がつけば知らない部屋に立っていて、
足元には知らない夫婦が倒れていた。
思わず差し伸べようとした私の手の平は
赤く染まっていた
よく見れば手だけじゃない。腕も、足も……恐る恐る頬に触れれば、ぬるっとした感触が返ってきた。
そう、今の私は全身血だらけだった。
だがそれにしては痛みを感じる箇所がない。つまり、全部
それはもうこの状況を説明するには十分すぎ
て──
“忘れるな”
そう言われた気がした。
ここは私の“記憶”の中だ。おそらくこれは鬼の幻術の類で、私はそれに見事に嵌まってしまったといったところか。
(はや……く、戻ら…ないと)
この状況は非常によろしくない。過ぎた事だと頭では分かっていても、心はそうはいかない。
ヒトの心は、あまりにも脆いのだ。
現に一度記憶の欠片を見つけてしまえば、あの日の全てが次々に、そして鮮明に思い出された。どしゃ降りの雨も、開きっぱなしの戸も、私を睨み、怨めしそうに事切れた瞳も。そして
目の前に広がったあか、赤、赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
───赤、一色。
『─────ッ』
喉からヒュッと嫌な音がなった。
不味い、呼吸が────
─────人を初めて殺めたあの日、私は血の海を前に過呼吸を起こした。
いくら吸っても収まる気配のない苦しみと、それに同調するかのように薄れていく指先の感覚。そしてそのまま気を失って───────
チカチカする視界、力の入らない手足。
フラっと傾いた体を立て直すすべもなく、私は私の記憶通りに地面に倒れこむ
─────ことはなかった。
『───ど……して』
どうして、ここに貴方がいるのか。
『にぃ、さま?』
気づけば兄の腕の中にいて、そっと頭を撫でられていた。
ぽん、と頭にのせられた手の温もりは、間違うはずもない兄のもので
「おう、遅くなっちまったな。──後は俺がやる。」
だからお前はもう休んどけ、そう言って彼はもう一度私の頭を優しく撫でた。
言いたいことはたくさんあったのに、張り詰めていた糸が切れたせいで、私の意識はプツリと途切れた。
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ユミヤミ(プロフ) - ちょっと天元さんイケメン!見てる途中で何回も「はっっっ!やばいわー!」ってなりました!天元さんのイケメンが全面に出てますね!たまらんわぁ。 (2019年10月13日 20時) (レス) id: f76e313fab (このIDを非表示/違反報告)
雲隠 - うぎゃぁぁあぁぁ! 何これ?!天元さんかっこよすぎではないか!?嫁を心配している天元さんもいいけど、妹を心配している天元さんの破壊力がえげつねぇ! (2019年9月5日 17時) (レス) id: fa6b997845 (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 面白い!天元!更新頑張って!(無理はしないでね!)応援してますよ! (2019年8月31日 13時) (レス) id: 3d6828cd0d (このIDを非表示/違反報告)
照(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!好き!ホントに!更新頑張ってください! (2019年8月30日 20時) (レス) id: a0ce70a935 (このIDを非表示/違反報告)
れもねーど - 村田さんと関わるための布石嬉しいですありがとうございました! (2019年8月28日 9時) (レス) id: bcf5716af8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤い金魚草 | 作成日時:2019年7月19日 23時