【及川徹】重ねて、忘れて純愛【HQ】 (ページ31)

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*及川side

「及川くんのお兄さんのこと、好きだったんだ」

ああ、やっぱりと思う反面、胸を突き刺すAさんのその言葉。
頷くわけでもなく、Aさんの声に耳を傾けていた。

「名前も知らなかったし、叶うなんて思ってもない、……けど」

ついにボロっと涙が1滴溢れ出す。
その涙は、俺が拭ってもいいものなのか？
Aさんは途切れ途切れの言葉を必死に紡いでいく。

「けど、……だけどやっぱり辛いなぁ」

あはは、と無理矢理乾いた笑い声をあげるAさん。
Aさんにこんな顔をさせてる兄ちゃんが憎い。

それ以上に泣いている彼女に何も出来ない俺に対して腹が立つ。

「俺と重ねてましたよね」

「気づいてたんだ、うん、重ねてた」

涙をボロボロと頬に伝わせて落としていくAさん。
ココアの缶をぎゅっと握りしめる。

俺はAさんの手を両手で包むようにぎゅっと握る。
驚いたように俺を見る彼女。

「好きです、俺はAさんが好きです」

「慰めなくたっていいよ」

「慰めでこんなこと言えるほど、俺は性格良くないです」

Aさんの涙は止まることは無い。
やっぱり俺じゃダメなんだ、という諦めが俺に襲いかかってくる。

兄ちゃんよりも俺の方が背が高い。
兄ちゃんよりも俺の方が女子にはモテた。
兄ちゃんよりも俺の方が運動ができた。

兄ちゃんよりも俺の方が飲み込みがはやくて、比較的器用になんでもこなせた。
でも勉強で勝ったことは無い。

そんな俺よりもAさんに好かれたのは兄ちゃんだった。
Aさんが小さな声で言った。

「ごめん、私、まだ及川くんとお兄さんを重ねてる、向き合えそうにないよ」

「……わかってます」

バレーと私どっちが大切？と聞かれて振られたことは何度もあった。
でも、付き合う前から振られたことなんかなかった。

ただあいにく、俺は好きになった人をここで簡単に手放すほど諦めのいい男じゃない。

「諦めませんから」

「たぶん、及川くんのこと好きになることはないと思うけどな」

「それでもいいです、俺が諦めるまで好きでいます」

「それ、諦める気ないんじゃないの？」

くすくすと笑う彼女。
涙は相変わらず出ているけれど、やっと俺を見て笑ってくれたことが何より嬉しかった。

「Aさんは兄ちゃんを諦める準備でもしててください」

俺はそう言って、コーヒーをぐっと飲み干した。

「俺は兄ちゃんのこと忘れさせる準備しとくんで」