【及川徹】重ねて、忘れて純愛【HQ】 (ページ20)

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及川side

「及川くんは優しすぎるよ」

そう言う彼女を見て思わず顔が歪む
優しすぎるって……そんなの、そんなの……

＿＿＿" 貴女にだけですよ "

そう喉まで出かかった言葉を咄嗟に飲み込む
今この言葉を言うのは違う気がしたのだ

それに、何となくだけど。
彼女の心情は読み取れる

ふとした瞬間

ほら、今だって

きっと彼女の瞳に映る俺は、無意識のうちに兄ちゃんへと置き変わってるんだろ？

俺が優しくすればする程、俺じゃなく兄ちゃんへの気持ちが大きくなるんだろ？

俺と兄ちゃんを比べて、何処か安心してるんだろ？？

無意識なだけあって、俺に対して申し訳ない……
とか、思ってるんだろうな。

Aさんの事だから、きっとそうだ

俺さ、分かるんだよね。

元々観察眼には自信があるし、人の感情や調子をすみとることだって得意だ

それを更に鍛えてセッターしてた訳だし。

Aさん。俺、貴女が思ってる以上に鋭い奴だよ

「帰りましょう」

「どこに？」

「Aさんの家です」

そう言うとAさんはほんの少しだけ悲しそうな顔をして、

「帰る、けど、及川くんはだめ」

言うと思った

俺は構わず彼女の手を取り、そのまま引っ張るようにして彼女の家に向かった

.

｢………送ってくれてありがと……｣

｢いえ、大丈夫ですよ。それじゃ、また明日｣

そう言うとAさんは悲しげのある微笑みで

｢うん、また明日ね。及川君｣

そう別れを告げ、ドアをバタンと閉めた

彼女はいつ俺自身を見てくれるのだろうか？

一人ドアの前に残された俺はそう思いながら深めの溜息をついて……

自分がそんなふうに考えている事自体に驚いた

なんで俺、彼女に優しくしたいと思ったんだ？
なんで傷つけたくないって思ったんだ？

そんな思考にグルグル囚われているうちに、いつの間にか自分の家の前に居た

………ダメだ、今日は早く寝よう。

そう思って家のドアを開けた

.