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「あ、でもそんな全くできないってわけじゃないんですけどね」
暗かった表情をむりやり明るくして、及川くんがそう言った。
クラブチームの監督をしてるくらいなら多少はお手本でやったりするんだろうし、嘘ではないだろうけど。
「ほんと、Aさんが思ってるほど酷いものじゃないんで、そんな顔しないでください」
そう言って私の頬を愛しそうに撫でる。
向かい合っただけに、彼の顔がよく見える。
相変わらずイケメンで、なのに彼の少年のような無邪気さと哀愁が私の胸を痛いほどに刺してくる。
「嬉しいな、Aさんが俺を思ってそんな顔してくれるの、でも俺、Aさんに笑って欲しいです、そんなことで落ち込むなって」
「笑ったら、及川くんは元気になるの?」
「……ならないです」
「及川くんの努力を知らない私が、そんなことで済ませられるわけないでしょ」
私は不確かな偏った情報だけで、彼の努力や精神状態をひとこと"そんなこと"で済ませられる自称理系じゃない。
しばらくの沈黙の後、及川くんがバイトに行くという理由で解散になる。
店を出てすぐの信号。
青になる前、私はぐっと背伸びをして彼の頭をそっと撫でた。
柔らかい髪の感触がくすぐったい。
「及川くんが後悔のないようにすればいいよ」
「なんですか、急に」
「バレーのことも、就職や院に進むことも、及川くんが絶対後悔しない道を選べばいい」
及川くんが、私の手を頭からそっと自分の頬に移動させる。
及川くんの頬は意外とかたいな、なんて。
「ありがとうございます」
そう言って、優しく私の手を離した。
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いずみ(プロフ) - とても面白くて、先が気になるお話です! (2019年10月20日 21時) (レス) id: ce54617277 (このIDを非表示/違反報告)
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