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*及川side
珍しく声を上げるAさん。
バレーをやってるのは兄ちゃんじゃなくて俺だし、監督をやってるのも俺。
重ねようもないこの事実に安心する。
今のAさんは兄ちゃんじゃなくて俺を見ているはず。
「監督……、高校までやってたならサークルにでも入れば良かったんじゃないの?」
それとも育てたい側?と、大袈裟に首を傾げて考えるAさん。
前に言ったことを覚えててもらえるのは嬉しい。
それが恋をした人なら尚更。
告白されてなんとなく付き合ってふられての繰り返しに終止符を打った感情。
「まあ、事情がありまして」
「へえ、監督って簡単になれるものなの?」
「甥のクラブチームなんで、意外と」
「……甥?」
「はい、兄ちゃんの……」
ハッとして、俺は口を噤む。
何言ってんだ俺、馬鹿野郎。
Aさんの瞳が揺れるのを、見逃すことなんかできなかった。
明らかに動揺している。
手から漂う甘い柑橘の香りが、嫌味ったらしく鼻をつく。
「Aさん……」
謝ろうとした。
でもおかしな話だ、好きな人のことなんて話してない奴にあやまられるなんて。
Aさんは動揺を隠そうとはしているが、隠しきれていない。
「それじゃあ、監督頑張ってね!」
そう言って大股に研究室の扉に向かっていき、ドアノブに手をかけて部屋を出ていくAさん。
慌てて追いかけるように、研究室を出るがもうそこにはAさんの姿はない。
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いずみ(プロフ) - とても面白くて、先が気になるお話です! (2019年10月20日 21時) (レス) id: ce54617277 (このIDを非表示/違反報告)
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