【天童覚】カフェ・ノスタルジア【HQ】

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*天童side




過呼吸になった時の対処法なんて、高校の保健でやっただけだ。

紙袋で息を吐き出す方法、呼吸のタイミングを教える方法、そして相手が恋人や伴侶ならキスが効果的とも。

俺は迷わずキスを選んだ。
ずるいかもしれないけど、いやずるいか。
彼女に触れる唇が熱い。

離れるとAちゃんは軽く咳き込む。
過呼吸は治まってきたらしい。


「大丈夫？」

「ごめ、なさい」


そう言ってまた咳き込む。
苦しそうな様子を俺は見つめる以外にできることは無かった。

過呼吸の原因にあるのは、病気の発作か、あるいは突発的な不安や恐怖。

呼吸を整え、Aちゃんがゆっくり立ち上がりまた椅子に座る。
その目はまだ潤んでいる。

俺も同じように椅子に座ると、Aちゃんとバッチリ目が合う。


「話したくなかったら別にいいヨ」

「……確かに私は味覚障害があります」


俺がAちゃんに渡したのはただの水じゃなくて、前にAちゃんが嫌いと言っていたヨーグルトの味がする透明飲料。

前から味を感じないんじゃないかとは思っていたけど、いまいち確信に迫れなかった。

だけど今、確かに決定的なことがわかったけど、それと同時にAちゃんに苦しい思いをさせてしまった。


「もともとは普通に味覚はありましたけど、怪我でだんだんなくってきました」


黙っててすみません、と申し訳なさそうに頭を下げるAちゃん。
味わってもないのに美味しいと言われたのは料理人としては腹立たしい。

なによりも1番美味しいと言うのが嫌なはずのAちゃんに、気を使わせていた俺が1番腹立たしい。

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