【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ1)

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情とは厄介なもので/ut お花畑ページ1

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「誠実な男が好きなんやったっけ」
「え？」

音もなく灰が落ちた。そうして、追い打ちのように煙草で灰皿を叩く。私はそれを見ながら、胸の内で先の言葉を繰り返した。
唐突に意味の分からない質問を寄越した男は何を勘違いしたのか、「浮気しない男が好きなんやろ？」と言葉を変えた。

「誰だってそうでしょ」
「そか」

私の答えに気を良くしたのか、ほんの少し口角を上げて煙草を咥える。じわり、火が煙草を灰へと変えた。
そしてもったいぶるように、緩慢な動作で息を吐いて白い煙を追い出す。

「俺、他の女と縁切ってきてん」
「へー、そうなんだ」

どうでもいい情報だった。鬱がどの女と付き合おうが、何人と付き合おうが私に関係のない話なのだから。それをわざわざ報告したのは、ただの話題作りなのか、それとも。

「それでさ」

わざとらしく一拍置いて、鬱は煙草に灰皿を押しつけた。ぐしゃり、火が消えた。

「俺と恋人にならない？」
「……私、そういう目では……」
「一途な男がいいんやろ？」

聞きたくないと遮るように、鬱は声を先程よりも張り上げた。思わず眉を寄せたのは気付かなかったのか、気に留まらなかったのか何も言われなかった。

「他の女とはもう何もないし連絡手段だってない。疑うなら見てもええよ」

そう言ってスマホを押しつけてきたが、要らないと突き返す。鬱は少しの間、暗いままの画面を見てから机に置いた。

「鬱とはそういうのじゃなくて普通の友達としてやっていきたいから……」
「なんで？」
「え？いやだって恋愛感情で見てないし……」

理由なんてそれだけで事足りるだろう。一方的に好意を寄せていたって意味がない。仮に頷いたとしてもいつか破綻する。
鬱は納得できなかったようで、机を小さく引っ掻いた。

「なんで？浮気なんてせえへんよ、どうしたら信じてくれる？」
「疑ってるとか、浮気しないとかの話じゃなくて、私は鬱と付き合わない」

顔を歪めて、切羽詰まったのか鬱は一段と声を荒らげる。

「ならどうしたらええの？」
「諦めて！」

張り合うように声を出し、席を立とうと腰を上げる。鬱はその隙を逃すことなく腕を掴んだ。

「べつにええけど、ずっと付き纏うで」
「……犯罪だよ」

前のような関係に戻れないことなど、とっくのとうに分かっていたが、それでも情からなのか突き放せないのだから救いようがない。