恋とかホント、つまんないのに。【短】

ストーリーテラー ページ8

．




「起立、礼」


彼の声で みんなが従い動く


彼が笑うと みんなが笑う
彼の声が聞こえない日はみんなの空気も少し曇る


「神宮寺ー、食堂行こうぜ」

「おう、カレー食べよカレー」




本日もカレーを食べるらしい

同じクラスの人気者、神宮寺勇太は
立派なストーリーテラーだと私は知っている

みんなまんまと騙されているのだ
彼の巧みな話術に。


．





彼は私のクラスで1番の成績、

所属するバスケ部ではエース、

そして極めつけに あのルックスで


正直 性格なんか良くなくたって
周りにいる人だかりは絶えないだろう。


その上彼は 前記のとおりストーリーテラーなのだ。

つまり、とても口が達者で 話し上手だから
彼の周りは いつも 騙されてるのかというほどに
人の笑顔でいっぱいだった。


だから、正直
性格が良いか悪いかは判断できないのだ。



そんな彼に私は騙されまいと、
目の前の作品制作に熱を入れた



放課後になり
さっき編集していた写真を部室前に貼り出す



空と雲とのコントラスト
私は青が好きなのだ。単純に明快に
深くも浅くも美しいから、ずっと好きなのだ





「いい写真だね」




いきなり頭上で声がして
慌てて振り向き見上げると

バスケ部の練習着姿の神宮寺くんがいた



「めちゃくちゃ綺麗な空。
写真撮るの上手いね」


そう言えば誰でも喜ぶとでも思ってるのか。



「どうも」



私は軽くお辞儀をして
画鋲を手に部室に戻ろうとした




「ねぇ、」



彼は端正な顔を歪めることなく、私を引き止めて




「バスケ部の写真も撮りにきてよ」




と、言った。
初めて話した日にこんなお願いをされて
彼は一体どんなつもりなんだ、
何を企んでるんだ、とか思ったけれど


断る理由も特にないし。






その日から私は

バスケ部の写真を撮ることになった。




すっかり騙されたのだ。
神宮寺勇太という名のストーリーテラーに。

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