恋とかホント、つまんないのに。【短】

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ちゃんとサヨナラができないまま
ほんとに海人さんはこの街から消えた


あれから時間は経ち
もう少しで今年が終わる最後の日




ふとテレビでやっていた特番
音楽の生放送スペシャルを眺める



「A、みかん取って」


お母さんの声に適当に反応して
私はテレビに釘付けになった





「海人さん…、」





そこには新人特集で
期待の新人シンガーソングライターとして
彼が映っていた。

わたしが独り占めしていた彼のうたはいま
全国へ、世界へ、羽ばたいていく



最後の歌なんて嘘じゃん

そうおもった


だけど、

携帯を開き名前を検索すると、
サイトを開くとその意味がわかった

あの寂しそうな顔が
あの腐りかけたギターの音が

すべてなんの意味を為していたのか

私を引き止めて
俺の曲好き？なんて聞いた意味が


手に取るようにハラハラと崩れてわかる



海人さんの作る曲はもう
彼のものじゃなかった
彼が作詞していた曲も
彼が作曲していた曲も

すべてもう、彼のものじゃなく

すべてはもう、彼から溢れるものではない



彼は売ってしまった


自分の才能も
自分の個性も



彼に残る その甘く優しい声だけが

私の目からこぼれ落ちる涙にやさしく寄り添った






「海人さん、さよなら…」





聞こえるはずもない
テレビの中で笑う彼へ



もう、今度は来ない。
私はあなたに会いには行かないし
あなたももちろん私には会ってくれない



私たち おわりが来たね
呆気なく、カウントダウンは
予想よりも短かったらしい。




元気でね、海人さん。







．完

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