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「はい、どうぞ」
そう言って海人さんは
私の目の前に白いマグカップを置いた
湯気が出るそれは
きっと彼の嫌いな紅茶
「ありがとうございます」
「ん、」
海人さんはその言葉に
また目を細めてわらう
ワンルームの部屋は
きっとひとりじゃ寂しいに決まってる
海人さんは私の存在が
まるで見えないように
ソファに座って 慣れた手つきでギターを触る
ジーコード
エフコード
イーマイナーにディーセブンスコード
そして移調してパワーコードに移ると
彼の人差し指でずれてピンとなる弦の音が
やけに心地よくて私は目を閉じる
「新しい曲ですか？」
私が尋ねると
海人さんは顔を上げた
目をぱちぱちと2回ほど
瞬きをする。私を見たままシャッターを押すように。
「Aってさ、俺の曲好き？」
私はぶんぶんと頷く
彼の曲が好きだから 彼のことを好きになったんだ
彼の曲が私たちを繋いだんだ
「どの曲が好き？いちばん」
「え……、」
「ぜんぶは無しね？」
その言葉に声が出ない
だって全部なんだもん
海人さんの作る曲はぜんぶ素敵で
優しくて 耳から心から離れない
「ぜんぶ、、です…」
海人さんは そう言うしかなかった私を
きっと理解していた
だから言ったのだ『ぜんぶは無し』だと。
「もう少しで俺、ここからいなくなるんだ」
海人さんは
ギターを見つめながら 呆気なく言った
「えっ？」
「だから最後の曲にするんだ、これ」
海人さんの本心はいつだった
見えたことなくて そんな彼が
私は物足りなく。だけどとても 好きだったのに
彼の声は少し
頼りなく 震えた
私より少しだけ 歳の多い彼は
一体何をみて 何を感じて
歌をうたうという方法を選んだんだろう
「最後、か……」
零れた私の本音を
海人さんは拾い上げることなく
また、黙々と
ひとり 楽譜とギターに向き合った
私は白いマグカップの中の
まだ少し熱い紅茶をすする
私までこの紅茶が嫌いになりそうで
だけど、嫌いなのに用意をしてくれる
海人さんをおもうとやっぱり嫌いになれなくて
なんだか滲む中
紅茶をすすった。
私の音と
ギターのアルペジオが
寂しいワンルームに溶ける
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霞草(プロフ) - aimiさん» コメント頂けて嬉しいです。久しぶりになにか執筆したいなぁと思ってます！ (2021年10月10日 1時) (
レス) id: cf24c8e438 (このIDを非表示/違反報告)
aimi(プロフ) - あと、燃える心に駆け抜けろの続編が読みたいです。よろしくお願いいたします (2021年10月6日 20時) (レス) id: 7523aceb2d (このIDを非表示/違反報告)
aimi(プロフ) - 私、こういう感じの作品初めて見ました‼️また、書いていただけると嬉しいです‼️ (2021年10月6日 20時) (レス) @page37 id: 7523aceb2d (このIDを非表示/違反報告)
すばりてちゃん - あぁ、やっぱり作者様が紡ぐお話はエモすぎる、と心より思います。いつか私も、作者様のように人を動かせるような言葉を紡げたらと憧れました。陰ながら応援しております。 (2019年12月25日 12時) (レス) id: 9aa5aa9bdc (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 岸くんのストーリー好きです。続編で長編とかも書いてもらいたいです。また、廉くんのストーリーも、番外編でも良いので、ハッピーエンドになるようなお話が読んでみたいです。よろしくお願いします。 (2019年3月24日 7時) (レス) id: 5ca5d758c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：霞草
| 作成日時：2019年3月19日 0時
