心 拍 数 #2

３ ７ 拍 目 ページ2

・




「カナヲ、可愛いわよ！！写真撮りましょう！！」


「カナヲ先輩可愛いです〜！これなら、お兄ちゃんも惚れますよ！！」




ズキッ、と心が疼いた。
真菰が隣で、心配そうな優しい目を向けてくれているけど、笑い返すことができない。

そうなの。
すごくカナヲは可愛い。
前にカナエ先生と選んでいた――淡いピンクのワンピースも、素敵なレースも、赤い大きなリボンも、花も蝶も、桃色の浴衣も。女の子らしい服を、なんでも着こなせる。
……私には、似合わない。

私が男なら、カナヲに惚れる。
そう思うくらい、カナヲは可愛いし、いい子だ。
家族想いで、友達想い。いつも周りをよく気遣っていて、真面目で努力家で、とても優しい。
私は家族に不満を持ってる。友達想いなフリして、心の底ではどす黒い感情隠し持ってるし、気遣いなんてうまくできない。不真面目だからテストの点だって悪いし、努力も途中で飽きて放り投げる。優しくなんてない。

嫌だ。
カナヲに対する自分の心が嫌で、吐き気がする。気持ち悪い。
カナヲは非の打ち所がないほどいい子なのに、こんな自分に嫌気が差す。




「……Aちゃん、ちょっと来て」




その瞬間、真菰に強く腕を掴まれて、別の部屋に引きずられた。
えっ、と思わず顔を上げると。

――彼女はふわふわとした笑みは浮かべていなかった。




――




「Aちゃん」




かなり離れた廊下まで連れてこられて、やっと腕を離してくれた。
俯いて黒髪で顔が隠れているせいで、表情はわからない。
ただ、声はいつもより少し低かった。




「私、怒ってるよ」


「……え、」




怒ってるよ、って。
何か真菰を怒らせるようなこと、したっけ？
そう考えたけど、記憶には何もなくて思考を停止させる。

真菰はやっとこっちを見た。





「……真菰、」


「Aちゃんが友達想いなのはいいことだけど、ちゃんと自分の気持ち言った方がいいよ。Aちゃんだけ苦しくなるのはダメだよ。Aちゃんの心が……壊れちゃう」




そう真菰は笑った(・・・)。
「怒ってる」とは言ったけれど、笑っていた。
ただ、ふわふわとした笑い方じゃなくて……なんだか寂しそうな、そんな。




「……せっかく、好きな人は伝えても大丈夫な関係なんだから」




そう言った真菰は目を伏せた。
長いまつげが、大きな瞳に影を落とす。

どうしてか、真菰が一瞬泣いているように見えた。




・

３ ８ 拍 目→←３ ６ 拍 目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す