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千賀に頼まれた新店舗でのイベントの件を、出勤してすぐにオーナーにメール。
ランチタイムを見計らって店に顔を出すだろうけど、早めに越したことはない。
すぐに「昼過ぎに行くから詳細を聞かせてくれ」と返信が来た。
客層が乱れるのを恐れて無闇に広告を出すのは避けているので、口コミで使ってもらえるのはありがたいのだろう。
「おはようございます」
「おはよう、早いね。横尾さん」
「今日はデザートに少し時間かかりそうだったから早めに仕込んどこうと思って」
「お、楽しみ。俺たちの分もあったらうれしーな」
もちろんわかってると言うように、にこりと微笑んでキッチンに向かう背中。
キッチンに入ってしまえば、こちらからはほとんど後ろ姿しか見えない。
千賀も、ここでこうして彼の姿を見たのか。
どんな思いで彼を見たんだろう。
あの日、呆然とキッチンを見つめていた千賀が蘇る。
『…っ、ごめん、俺、呼ばれたから戻らなきゃ』
顔色を変えて店を後にした千賀に違和感を感じたけど、原因が新しい料理人だとその時はわからなかった。それから、千賀がランチタイムに顔を見せることはなくなり、少し前に千賀が頻繁に話していた連絡が取れなくなった「横尾さん」が、新しい料理人のことだと合点がいった。
あんなに心配してたくせに面と向かって話せないほど、彼に複雑な感情を抱いてるんだろうかと思ったら、胸がざわついた。
俺にはあんな風に千賀の感情を揺さぶることはきっと出来ない。
つらつらと考えてるうちに開店時間。
お菓子の焼ける甘い香りも漂ってきてる。
プレートをOPENに変えたらすぐにお客さんがやってきた。
ドアが開くたびに、あのドアをくぐるのが俺に会いに来た千賀だったらいいのに、とどこかで思う自分が女々しくて笑える。
友人として接しているだけで幸せだろう。もう二度と会えないと思っていたんだから。
『またね』の約束ができるだけで、充分だろう。
『ずっと、一緒だよ。たかちゃん、また、遊ぼうね』
守れない約束に心を痛めることもないんだから。
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泉綾香(プロフ) - あんにんさん» 恋情ではなく、心配してるのに蚊帳の外に置かれたような淋しさがあったのかもしれないですね。弟みたいな感じかな。渉さんと太輔さんも穏やかに過ごしているようです(*^o^*) (2015年9月23日 22時) (レス) id: 1faea3bb26 (このIDを非表示/違反報告)
あんにん(プロフ) - 千賀さんの苦しかった胸の内が救われて良かったです!!そして、彼の目を通して穏やかな渉さんと太輔さんに、思わずうるうるしてしまいました(;_:) (2015年9月23日 16時) (レス) id: a5fe0938cb (このIDを非表示/違反報告)
泉綾香(プロフ) - keitoさん» ありがとうございます(*^o^*)マロも幸せに頑張ってます。 (2015年9月23日 15時) (レス) id: 1faea3bb26 (このIDを非表示/違反報告)
泉綾香(プロフ) - あんにんさん» お待たせしました。2人が再会しました。そして、ニカ千はどうなるのか。描写も楽しんでいただけたら嬉しいです(*^o^*) (2015年9月22日 22時) (レス) id: 1faea3bb26 (このIDを非表示/違反報告)
泉綾香(プロフ) - ゆう☆さん» こちらこそ、遊びにきてくださってありがとうございます。ようやく、動き出しそうです(*^o^*) (2015年9月22日 22時) (レス) id: 1faea3bb26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:泉綾香 | 作成日時:2015年5月22日 22時