箱庭【二千】

7 N ページ7

落ち着いた雰囲気の店で、千賀と遅い夕食を取る。
仕事の話、ハマっている物の話、実家のペットの話。
他愛ない話をしてるといつの間にか時間は過ぎる。

「あ、そういえばさ、今担当してる得意先からイベントに使える店ないかって言われてんだけど、ニカのとこの新店舗っていつオープンだっけ？」
「イベントか。オープンは再来週。バーだからカクテルパーティとかにはいいかもな。人数とか日程とか教えて。オーナーに聞いてみるわ」
「うん。頼むわ。新しい店でどっかないかって聞かれてて」

千賀はデザイン関係の仕事をしているためか、新商品の発表会やプレス向けのパーティなどに関わることも多い。
実際、ウチの店も何度か利用してもらっている。
明日にでも、オーナーに聞いてみよう。
新店舗もいい宣伝になる。

「新店舗のスタッフも気合入ると思うわ。多分、オープンして初めてのイベントになるだろうし」

新店舗に移動したスタッフ２人の顔が思い浮かぶ。マイペースな店長とテンパリ気味なバーテン。
…若干、不安がよぎるけど、やるときゃやる奴らだから大丈夫だろう。

「そっかー、じゃ、俺もPRしとく」
「ははっ。千賀さんよろしくお願いしまーす！」

まさか大人になってこんな風に仕事の話が出来るようになるなんて。
二度と会えないと思っていたのに。
千賀は、俺との出会いが「再会」だとは気づいていない。
でも、それでいいんだと思った。
１５年も前だ。何も言わず、彼の前から消えた俺を覚えているはずがない。
俺のほうは、悔しいかな。
店に入ってきた千賀をひと目見た時に、心臓が震えたけれど。
１５年も、忘れられなかった「ともだち」のことを、友情だけじゃない、特別な感情で「好き」なんだと気づくのにそんなに時間はかからなかった。
それでも、失踪した横尾さんを案じる彼が、横尾さんのことを想っていることが痛いほどわかったから。
臆病な俺は自分の気持ちを伝えられるはずもなく。
今日もいい「友人」として、彼の側にいる。

8 S→←6 S

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す