箱庭【二千】

4 S ページ4

「ふぅー、これでよし…と」

明日のプレゼン資料をチェックして、今日の業務は終了。
部署に残っているのはいつのまにか俺だけになっていた。
オフィスを出ると夜空には三日月。
夜風が心地よくて、近くのコンビニで缶ビールを買って公園のベンチに腰掛ける。
一人で仕事を任されることも増えてきた。
やりがいを感じる反面、横尾さんが今も会社に在籍してたら俺はまだ彼に頼っているんだろうな、とか、後輩としてじゃなく相棒として彼と組んで仕事をしてみたかったのに、とか、グルグル考えてしまう。
すごく尊敬してて、憧れてたからこそ、あっけなく会社を辞めた彼になんだか裏切られた気分になった。原因があの男だってことはわかってるのに。…俺が、彼の選択に口出しする権利はないのに。

「…サンドイッチ、美味かったな」

何の因果か、今横尾さんは二階堂の店で料理人として働いている。
彼と連絡がつかなかった期間、心配で二階堂に色々相談していたけど、二階堂はまさかその「横尾さん」が新しい料理人の「横尾さん」だとは思わなかったのだろう。
カウンター越しのキッチンにちらりと見えた彼は、以前にも増して細くなっていて、なんだか直視出来かった。声をかけることなんて出来なかった。
彼に会うのがなんだか怖くて、ランチタイムに二階堂の店に行くのは避けるようになった。
なんで辞めたのかとか、あの男は一体あなたに何をしたんだとか、聞きたいことはいっぱいあるのに。
直接、横尾さんから決定的な何かを聞くことが怖い。
自分がどうしたいのかわからなくて、堂々巡りだ。
考え込んでいたら、缶ビールはすっかりぬるくなっていた。

5 N→←3 N

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す