【d!】軽く病むくらいが丁度いい。【合作】 (ページ36)

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「……私のせいで死んでくれたらいいなぁ、なんて。」

ポツリと零れた純粋な悪意に背筋が凍る。

「望むことなら、あの子の死因は私が良いんです。私が間接的にAさんを殺したという実感を持ちたい。」

口寂しいのか紅茶の缶を取り出し、湯を沸かし始める。

「誕生と臨終は大抵皆平等に一度きりです。そう、たった一度だけ。そこに介入出来るのってすごく特別なことじゃないですか？」

彼独自の死生観にゾムは言葉が詰まってしまう。

「生憎、誕生の瞬間には立ち会えていませんから、せめて彼女の死にだけは爪痕を残したいと思いましてね。」

茶葉をポットに入れ、湯が煮えるのをじっくりと待つ。

「でもAも嫌がってたやん。咳込んでるの見て可哀想とかは思ったりせえへんの？」

「そうですね…でもやめられないんです。あの子が苦しんでるのを見るのも嬉しくて。私のせいで苦しんで肺悪くしながらも一緒に居てくれるんやって知ったら…幸せな気持ちになっちゃいました。」

火を止めてガラスのポットに湯を注げば、茶葉が赤く踊り出す。

「自分の身体も悪くなっていくというのに、いつも私のことを心配してくれて、そんなところも益々虜になってしまうというか！」

嬉々として色濃く出た紅茶をカップに注ぐ。勢い余った紅茶は、カップの表面を滑ってソーサーへと飛び出してしまった。

「な、なぁ、そんなん続けとったら死ぬより先にAに嫌われるで。そうなったらどうするんや？」

異常な理由を止めるつもりで躍起になって投げかけた質問にエーミールは静かに笑う。

「その時はその時ですよ。」

ただね、とエーミールは言葉を付け足す。

「いつか彼女と別れることになって、その後彼女が別の誰かとお付き合いして、結婚することになっても…俺の与えた毒が彼女の身体に蓄積されていつの日か突然身体を蝕んで苦しんで貰えたら、死ぬ間際に私のことを思い出してくれたのなら…」

恋焦がれて頬は紅潮せど、優しく細められた瞳には薄暗く欲が込められている。

「…いや、そうならないことを願いますよ。彼女とは末永くお付き合いしたいので。」

エーミールは静かに目を閉じて紅茶を飲み始めた。

「…マジでそうならんことを祈るわ。」

ゾムは聞かなければよかったと今更ながら後悔し、煙の満たされたことのない肺からため息を一つ吐いた。