七輪 ページ8
聞こえてきた声にゆっくりと振り返ると、そこにはそーくんが立っていた。
「っ、そー、くん……」
そーくんは私の様子がおかしい事に気づいたのか、「A?」と訝しげに眉を寄せて私に近寄る。
「っ……」
思わず手を伸ばし、そーくんの頬に触れる。
(……あたたかい)
「っ……そーくん、そーくん」
私が名前を呼ぶと、そーくんは手を伸ばし、ゆっくりと私を抱きしめる。
驚きながらも私はそーくんの背に手を回す。
(……ちゃんと、あたたかい)
生きている。
そーくんはちゃんと、息をしている。
「っ……」
また訳も分からず涙が出てきて、私はそーくんの肩口に顔を埋める。
「A」
そーくんが優しい声で言う。
「外にいたら身体が冷えちまう。
とりあえず俺の部屋入りなせェ」
私はその言葉に、黙ったまま頷いた。
.
そーくんの部屋に入り、私とそーくんは一緒に布団に腰を下ろす。
そーくんは何も言わず、私から言いだすのを待ってくれている。
その様子に私は少し安心し、少し落ち着いてから口を開いた。
「……あのね……夢をね、見たの」
「夢?」
頷き、私はたった今見た夢の内容をそーくんに伝える。
「皆さんが強いことは、すっごくよく知ってるの。
だから、こんな心配いらないってことは、分かってるの。
でも……」
今でも鮮明に思い出せる紅が、怖い。
そーくんから、十にぃから、お兄ちゃんから流れ出していた紅が。
いつか本当にそんな風になってしまうんじゃないかと、そう思ってしまう自分がいる。
考えたくないけれど、もし、もしもそうなってしまったら、自分は正気でいられるのか。
怖くて、怖くて。
私がそのまま押し黙ってしまうと、そーくんは何も言わずに布団に入ってしまう。
「そ……そーくん……」
何か言って欲しくて声をかけると、そーくんはもぞもぞと布団の中で体制を整え、「ん」と私の方を向いて掛け布団を上げた。
「え……」
困惑していると、そーくんがポンポンと隣を叩く。
「来いよ」
「……」
そーくんの言葉に素直に従い布団の中に入り込むと、そーくんはそのまま私をぎゅっと抱き締めた。
(……あったかい)
2人で入っているからか、布団はいつもより暖かい。
でも、それだけじゃなくて。
そーくんの胸に頭を押し付けると、ドクドク、とそーくんの心臓の鼓動が聞こえる。
(あたたかい)
そーくんの身体は、ちゃんとあたたかい。
ちゃんと、生きている。
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時