二十三輪 ページ34
その猫は屯所で出会った白猫にそっくりだった。
白猫は私の姿を認めると、みー、と小さく鳴いてそーくんの腕をすり抜けた。
そして私の足元に擦り寄り、ごろごろと喉を鳴らす。
思わずしゃがみ込んで喉元を撫でてあげながらその子の顔を覗き込む。
パチリ、と目があったその白猫の瞳は、綺麗なオッドアイだった。
右目が透き通るような空色で、左目はキラキラと輝く琥珀色。
屯所の白猫と、同じだった。
「もしかして……屯所から追いかけてきたの?」
私の問いかけに応えるように甘えたような声音で一つ鳴き、白猫はごろりとその場に横になる。
そのまま耳の付け根あたりを撫でたまま、私はそーくんに顔を向ける。
「そーくん、どう思う?」
「どうって……」
そーくんは眉を寄せて呟くと、私の隣に座って猫を撫で始める。
白猫は、そーくんが触れると一瞬身体を強張らせたけれど、その後すぐに気持ち良さそうに喉を鳴らし始めた。
その様子を見て、私は思い出して言う。
「そういえばね、十にぃもこの子を撫でようとしたんだけど逃げられてたんだ。
そーくんからは逃げないんだね」
そーくんはその言葉を聞くと鼻で笑い、「ザマァねェな土方の野郎」と小さく呟く。
その声音に白猫はぴくりと反応し、そーくんの手を擦り抜けて私の膝の上に乗り、甘えるような視線を投げかけてくる。
「可愛い」
その視線に応えるように頭を軽く撫でてあげると、白猫は満足そうに目を細めて膝の上で丸くなった。
私が白猫を撫でる様子を暫く眺めていたそーくんはポツリと呟く。
「名前」
「……え?」
「名前、つけてやったらどうでィ。
俺がいなくなったらお前ェこの家に一人だろィ。
猫一匹いるだけでも違うんじゃねェか?」
「……そうかもね」
確かに、この家に一人きりというのは寂しいかもしれない。
う〜ん、と暫く逡巡していた私は呟く。
「……ゆき」
「あ?」
「白くて、毛並みが綺麗だから……ゆき。
……安直すぎるかな?」
言ってから少し不安になってそーくんに顔を向けると、そーくんはゆっくりと白猫へと視線を動かした。
「……いいんじゃね?
ほら、名前つけてもらえたじゃねェかィ。
良かったな」
そう言いながら白猫を撫でるそーくんが何だか可愛くて、私は思わず笑みをこぼした。
.
夕方になり、私とそーくんは二人並んで武州の夕焼けの中を歩いていた。
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時