二十一輪 ページ32
それから数日経ち。
ミツバ姉の持ち物を整理し終えた私たちは、のんびりと武州で過ごしていた。
(そういえば、そーくんは明後日の朝には江戸に帰っちゃうんだよね……)
壁にかけられたカレンダーを見ながら確認する。
そーくんの休暇は二週間だったはずだから、それで合っているはず。
そんなことを考えながら布団を敷いて寝る準備をしていると、「A」と襖の向こうから声がかかり、私は顔を上げる。
「そーくん?どうしたの?」
声をかけながら襖を開くと、そーくんが私を見下ろしながら告げた。
「……明日」
「明日?」
「連れて行きてェとこがある」
「え……」
予想だにしていなかった言葉に目を瞬かせる私に、そーくんは「駄目か?」と首を傾げてくる。
「っ……ううん。凄く楽しみ。
どこに連れて行ってくれるの?」
「それァ明日のお楽しみでィ」
「そ、そっか」
「おぉ。……じゃ、明日。おやすみ」
「う、うん。おやすみ」
そーくんが私に背を向け、部屋に入ったのを確認してから私は襖を閉める。
そのまま私はそこにへなへなと座り込んだ。
(っ……そーくんと、お出かけ……?
二人きりで……?)
江戸でも二人で街を歩いたはずなのに。
(……どうして、こんなに嬉しくなっちゃうんだろう)
ずうっとこの家で二人きりでいたからか、そーくんのことを考える場面がたくさんあったからかもしれない。
例えば、私の後ろから高いものを取ってくれるときに触れる、硬い胸板だとか。
低いけど低すぎない、鼓膜を心地よく振るわせる声だとか。
いつだって私をまっすぐに見つめてくれる、綺麗な紅い目だとか。
私の手を取ってくれて、私が咳き込んだときには優しく背中を撫でてくれる大きな手だとか。
(あぁ、どうしよう)
どうしようもなく、顔が熱い。
心臓がうるさく鼓動している。
こんな感情、初めてで。
(……私、眠れるかな)
熱い頬に手を当てながら、私は暫く布団の中でうるさく跳ねる鼓動の音を聞いていた。
.
「……ぃ、A。おい、A」
「……ん……?」
優しく揺すられている感覚にゆっくりと目を開ける。
……と、いきなりそーくんの顔が間近に合って、私は思わず息を飲む。
「っ……」
「珍しいな、オメェが俺より起きんの遅ェなんて。
もしかして具合悪いのかィ?」
「え……」
そーくんが私の額に手を伸ばすけれど、私は慌てて身を引いて口を開く。
「だ、大丈夫だよ!」
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時