十九輪 ページ30
「始めようぜ」
「あ……」
その一言で、私はようやくそーくんが何の為に休暇を取って武州に帰って来たのかを思い出した。
「そうだね」
私も頷いて立ち上がり、ミツバ姉の部屋に向かった。
.
「……やっぱり、少ないね」
「あァ」
ミツバ姉の部屋にて。
私とそーくんは、箪笥や文机の中など、手当たり次第にひっくり返し整理を開始していた。
だけど、驚くほど何もない。
着物も必要最低限の枚数しかないし、その他のものも基本一つずつしかない。
(……もしかして)
思い当たる節があって、私はふと手を止めてしまう。
(ミツバ姉は、私にはよく『Aちゃんは可愛いし、年頃の女の子なんだから可愛くしておかないとね』と言って、私に着物や簪を買って来てくれた……)
それは決して高価な物ではなかったけれど。
ミツバ姉が私の為を思って選んでくれたことが嬉しくて。
けど、ミツバ姉だっておめかしをしたいだろうに、私のものばかり買ってもらってしまっているのも何だか申し訳なくて。
嬉しいけれどどこか複雑な気持ちでそれらを受け取っていたことを、今でも覚えている。
(ミツバ姉の所持品が少ないのは、もしかして……)
……私に、何かを買ってくれるため……?
そう考えると、根拠もないのに何だかしっくりきてしまって。
ミツバ姉が自分の着物を買ってくることなんて滅多になかった。
それこそ、少しのほつれだったら自分で修復してまた着ていたくらい。
いつもいつも、私のために何かを買って来てくれた。
(……あぁ……)
ミツバ姉の愛が、暖かくて、優しくすぎて……。
思わず目が潤んでしまい、私は慌てて袖口で目元を拭う。
「そ、そーくんの方は、どう……?」
「……」
「……そーくん?」
何も答えないそーくんを不思議に思い、私は立ち上がってそーくんのところへ向かう。
「そーくん?」
そーくんの手元を覗き込むと、そーくんの手には手紙の束が。
「それ……」
「なァ、A」
私の言葉に被せるように、そーくんは食い気味に言葉を発する。
「……姉上、俺の手紙について何か言ってたか?」
「え……」
私は一つ瞬きをし、そーくんの隣に腰を下ろす。
そしてそーくんの手元を覗き込みながら言った。
「……ミツバ姉、そーくんからの手紙、いつも凄く楽しみにしてたよ。
いっつも嬉しそうに読んでて……何回も何回も、同じ手紙を読み返してた」
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時