三十輪 ページ45
「そっか……」
そーくんが行ってしまうことに寂しさを感じながら声を溢す。
そーくんはそんな私を見て、何かを思いついたように隊服のジャケットから手帳セットを取り出して、何かを書きつける。
「ん、ほら、A」
「え?」
条件反射で受け取ってしまってから紙を見ると、そこには11桁の数字が記されていた。
「これって……」
「俺の携帯の番号。
何かあったらかけてこい」
「……ありがとう」
(何だか、凄く嬉しいな)
ただ電話番号を教えてもらっただけなのに、そーくんが私の為に何かをしてくれたということが嬉しくて、私は頬を綻ばせる。
「ん……じゃ、俺はそろそろ行く」
「あ……もうそんな時間?」
家の中を振り返って時計を確認すると、なるほど確かにそろそろいい時間だな、と納得する。
「せめて、門のところまではお見送りさせて」
縁側から立ち上がりながら言うと、そーくんは「おー」と気の抜けた返事を返す。
一歩踏み出したところで、私は足元のふわふわした感触に気づく。
足元を見ると、いつの間にやってきたのか、ゆきが足にすり寄っていた。
「ゆきも、そーくんのこと一緒にお見送りしてくれるの?」
ゆきを抱え上げながらそう問うと、ゆきは私の腕の中で大人しくごろごろと喉を鳴らす。
「ふふ……ありがとう」
腕の中のゆきを可愛いなぁ、と思いながらそーくんと門へ向かう。
そして最後に身体を向き合わせ、そーくんが口を開いた。
「……んじゃ、また」
「うん。……またね、そーくん。
いってらっしゃい」
「……おう」
そう言ってそーくんは一度ゆきをふわりと撫でて、踵を返す。
だんだん小さくなっていくそーくんの後ろ姿を見送りながら、私は4、5年前とは違う、複雑な感情を覚えていた。
以前は、お兄ちゃんやそーくんたちが遠く離れたところに行ってしまうことが酷く悲しかった。
ただそれだけだった。
だけれど……。
(そーくんたちが江戸で活躍しているのは、本当に凄いことだし、誇れることだと思う。
でも、そーくんたち真選組の仕事はとても危ないものだと、私は身をもって実感した)
伊東さんが引き起こした内乱を思い出すと、今でも背筋が震え上がる。
(本当は、危ないことなんて皆してほしくない)
でもそんなことを言ったら、江戸で一旗あげようと今まで頑張ってきたそーくんたちのことを、否定してしまうような気がして。
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赤羽@美羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします♪ (2020年3月13日 9時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - めっちゃ面白いです!さっそくお気に入り登録しちゃいました!更新楽しみにしてます、頑張ってください! (2020年3月12日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2019年9月11日 7時