三十九輪 ページ41
「……それで、これからのことなんだが……」
お兄ちゃんが言いにくそうに切り出す。
「今日の夜、ミツバ殿の通夜が執り行われる。
明日が葬式だ」
「出れるかな?」とお兄ちゃんが問う。
その問いに、私は迷わず頷いた。
「勿論、出るよ」
「……そうか」
お兄ちゃんは頷いただけで、何も言わなかった。
「それじゃあ、夜までに喪服は用意しておこう。
Aちゃんは喪服、持ってないよな?」
「うん」
「やっぱりな。
Aちゃんは、まだ江戸の道もあんまりよく分かってないよな?」
「うーん……そうだね。
まだ1人で出歩くのは不安かも」
「だよなぁ」とお兄ちゃんは腕を組む。
「俺が一緒に行ってやりたいのは山々なんだが、生憎屯所を離れられる状態じゃなくてな。
トシにも総悟にも休みをあげたいからな。
ここは局長である俺が頑張らなければ!」
「……凄いね、お兄ちゃんは」
そんなお兄ちゃんを見て、私は思わず呟く。
「ん?どうした、Aちゃん」
顔を覗き込んできたお兄ちゃんに、私は言う。
「お兄ちゃんだって辛いはずなのに、そんな風に周りのことを考えられるの、本当に凄い」
(太陽みたいだ)
私の言葉に少し驚いたように目を丸くしたお兄ちゃんは、すぐに「ガハハ」という豪快な笑い声をあげて、私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「っ、お兄ちゃん!」
「凄くなんかないさ。
俺はいつもトシ達に助けられているからな。
今度は俺が2人のことを助ける番だ。
人間、助け合いが大事なのさ」
そう言ったお兄ちゃんは「よいしょ」と立ち上がり、私に言った。
「そろそろ食堂に来ないと、朝飯食いっぱぐれるぞ」
「え」
私に「早くおいで」と言い残し、お兄ちゃんは部屋を出て行った。
(……私も、動かなくっちゃ)
そう思い立ち、私は重い体に鞭を打ち、立ち上がる。
そうして開け放った障子から差し込む光に目を細めた。
.
夜になり、私は喪服に着替えていた。
結局朝食の後、山崎さんと買いに行った慣れない喪服。
着替えをしながら、ふと思う。
(……十にぃ)
ミツバ姉の幸せを願いながら、ミツバ姉の隣を選べなかった十にぃ。
(そういえば)
ミツバ姉が危篤状態だと知っていた、と山崎さんが言っていた。
(それでも)
それでも、そんな状態になっても、ミツバ姉の側にいることを選ばなかった十にぃ。
……想い人の幸せを願いながら、婚約者をしょっ引きに行った十にぃは。
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あや(プロフ) - 赤羽@美羽さん» 受験お疲れ様でした! (2019年3月1日 0時) (レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽@美羽(プロフ) - あやさん» ありがとうございます!受験が終わりましたので、どんどん更新していきたいと思います! (2019年2月28日 19時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 赤羽@美羽さん» お忙しい中更新ありがとうございます!受験頑張ってください!これからも楽しく読ませていただきます。 (2019年2月11日 19時) (レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽@美羽(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます!もうすぐで受験が終わるので、そうしたらもっとテンポよく更新できるようになると思います!これからも読んでいただけると嬉しいです! (2019年2月11日 16時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 初めまして。沖田さんが好きで読ませていただいています。更新ありがとうございます。ミツバ篇好きな話なので、これから主人公ちゃんもどうなるか楽しみです! (2019年2月10日 12時) (レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤羽@美羽 | 作成日時:2018年11月18日 2時