三十四輪 ページ36
思わず坂田さんを見る。
坂田さん……起きてたの？
「こいつは姉上には内緒で……って、聴いてる訳ァねェか」
……そーくんがそう言うってことは、起きてるのかな。
坂田さんのことだから、寝たフリをして聴いていそう。
「野郎には、大事なモン色々持ってかれたが、行かなきゃならねェ。
近藤さんには死ぬと言われたんでねィ。最後かもしれねェ。
地蔵にでも全部喋っときたかったのさ」
その言葉に、私はハッと、弾かれたように顔を上げる。
「その大事なモンに、アイツも入っちまってんだろ」
聞こえてきた声に、そーくんと2人して坂田さんを振り返る。
「旦那……」
坂田さんは「よく寝たぜ」と言って伸びをする。
しかし。
「さて、眠気覚ましにいっちょ行くかァ。
テメーの姉ちゃんにも友達だって嘘ぶっこいちゃったし？
最後まで付き合うぜ。
総一郎くん」
そう言った坂田さんの目の下には大きな隈が。
それに……。
(総一郎くんって、誰？)
……もしかして、そーくんのこと？
「旦那ァ、隈」
そーくんが自分の目の下を指し示す。
「チンピラに殴られた」
坂田さんは見え見えの嘘をつき、立ち上がる。
そうして、2人して歩き出してしまう。
私は慌てて立ち上がり、そーくんの腕を掴む。
「待って」
振り向いたそーくんに、私は言う。
「……行くの？」
「……あァ」
「……お兄ちゃんに、「死ぬ」って言われたのに？」
お兄ちゃんが放った「死ぬ」という言葉の温度の無さを思い出し、背筋に冷たいものが流れ落ちるのを感じる。
「行く」
迷いなく放たれた一言に、そーくんの決意を感じ取り、私の手は力なく垂れ下がる。
「……A」
聴こえた自分の名前に顔を上げると、そーくんが私を真っ直ぐに見ていた。
「男には、死ぬって分かってても行かなきゃいけねェ時があるんでィ」
覚えときな、と、そーくんが私の頭を撫でる。
「……姉上のこと、頼んだぜィ」
「……うん」
私からの返事を聞いた後、そーくんたちは行ってしまった。
その背中が肝心に見えなくなってしまってから、私は集中治療室のガラスに手をつき、ズルズルと座り込む。
(……ミツバ姉)
……分かったよ。
ミツバ姉の言ってたことが、分かったよ。
男の子同士でしか理解し得ないこと。
それをしょうがないと理解しつつも、疎外感を感じてしまう気持ち。
私と彼らの距離の差を目の当たりにさせられた時の気持ち。
「……ねぇ、ミツバ姉」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あや(プロフ) - 赤羽@美羽さん» 受験お疲れ様でした！ (2019年3月1日 0時) (
レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽@美羽(プロフ) - あやさん» ありがとうございます！受験が終わりましたので、どんどん更新していきたいと思います！ (2019年2月28日 19時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 赤羽@美羽さん» お忙しい中更新ありがとうございます！受験頑張ってください！これからも楽しく読ませていただきます。 (2019年2月11日 19時) (レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
赤羽@美羽(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます！もうすぐで受験が終わるので、そうしたらもっとテンポよく更新できるようになると思います！これからも読んでいただけると嬉しいです！ (2019年2月11日 16時) (レス) id: 8b3b438a89 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 初めまして。沖田さんが好きで読ませていただいています。更新ありがとうございます。ミツバ篇好きな話なので、これから主人公ちゃんもどうなるか楽しみです！ (2019年2月10日 12時) (レス) id: a0e0346a06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：赤羽@美羽 | 作成日時：2018年11月18日 2時
