【銀魂】リコリスの花束を君に【沖田総悟】

一輪 ページ3

「……はい、出来たわよ」

「ありがとう、ミツバ姉(ねぇ)」



綺麗な夕陽が射し込んでいる部屋で、私は、ミツバ姉に結んで貰った髪にそっと触れる。
この髪型は、上京するからと、数日前にミツバ姉に教えて貰った髪型。

いつもは自分で結んでいるけれど、今日はミツバ姉におねだりして結んで貰った。



「珍しいわよね、Aちゃんが私にお願い事するの」

「……迷惑だった？」


そう言われて、思わず心配になって問いかけてしまう。


「そんなことないわ！とっても嬉しい」

「そっか、良かった」


そう言って私達は笑い合う。





「あら、そろそろ時間ね」

「……うん」



ミツバ姉は、最近承諾した縁談の話のお相手と結婚する為に上京する。
私はその付き添い。


ミツバ姉は大きめの荷物を持って立ち上がる。


「行きましょう、Aちゃん」

「うん」


私はミツバ姉より２回りくらい小さい荷物を持つ。


「ミツバ姉、持つの交換する？」


最近、前より更に具合が悪くなってきているミツバ姉に、私は心配して問い掛ける。


すると、ミツバ姉は笑って、

「Aちゃんは優しいわね。
でも、大丈夫よ」

と言った。





家を出てから、ミツバ姉は名残惜しそうに家を見る。


「……」


夕陽に照らされた家は、私達を、何時もより何倍も離れ難く感じさせた。


ミツバ姉にとってこの家がとても大事なことは、私も知っている。

きっと、ミツバ姉が此処に帰ってくることがないことも。


そう思うと、胸がキュッと締め付けられて、上手く言葉にならなかった。

だから私は、ミツバ姉の手を軽く握った。


ミツバ姉は少し驚いたようだったけれど、

「大丈夫よ。ごめんね、心配掛けて」

と、全然大丈夫じゃなさそうなのに、私に心配を掛けまいと笑って言う。



私は唯、
「……ううん」
と返すしかなかった。









それから私達は、駅へと他愛ない話をしながら向かった。

汽車に乗り、私達は向かい合って座る。


汽車が動き出すと、見慣れた武州の景色がどんどん後ろへと遠ざかっていく。



「そういえば、Aちゃんは汽車に乗るの、初めてよね」


「うんっ……

……というか、ミツバ姉も初めてだよね？」


初めての体験に少し舞い上がりながら訊く。


「えぇ」


ミツバ姉も何処となく楽しそうで、私はホッとする。





きっとミツバ姉はこの結婚を心から望んでいないことを、私は分かっていたから。

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