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すぐに、沈黙によって室内は支配される。
忍霧さんは迷っているのだろう。
僕のこの、わかりやすすぎるほど悩んでいる姿に。
この人は優しい。
情報を聞き出すことで、僕が傷つかないかと。
きっと、そればかりを迷っている。
そしてそれに漬け込んで情報を与えようとしない僕は。
······限りなく外道なのかもしれない。
「忍霧さん」
沈黙に耐えきれず、彼に声をかけた。
忍霧さんは戸惑うようにこちらへ視線を向ける。
「僕が差し上げられる情報は、これだけです」
チャリ、と音をさせてカウンターにあるものを置いた。
「なんだそれは······?」
「親戚の子の名前が刻んであるブレスレットです。
······パカさんに、渡されました」
忍霧さんの目が大きく開かれる。
「それはつまり······」
「ええ。あの子たちは間違いなくここにいるということでしょう」
恐れがない訳ではない。
でもしっかりした覚悟を持って、僕は忍霧さんを見据えた。
「僕は、これからも捜します。あの子たちを。
······そして、ひとつだけ訂正です」
眉をひそめる彼に、僕はそっと微笑む。
「僕は帰ることに執着など微塵もないのです」
“······むしろ、ここで消えてなくなってしまいたい”
「霧ヶ野······?」
後半は聞こえないほどの声量だったからか、
それとも雨の音にかき消されたか。
聞こえなかったようで言及こそされなかったが、
どちらにせよ忍霧さんに疑念を残してしまったようだ。
「気にしたら負けってやつですよ。
さて、僕はもうおいとまさせていただきます」
「おい! 待ってくれ」
ブレスレットをひっつかんで歩き出す。
扉の外で降りしきっている雨は、思いの丈冷たかった。
「······『ごめんなさい』」
呟いた声さえもかき消して。
湿った服は心を押し潰す。
ああ。
「もういっそ」
そこまでで口を閉ざした。
これだけは、言うべきじゃない、か。
“死んでしまえば楽なのに”
なんて。
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作者名:花藺 | 作成日時:2017年11月8日 19時