検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:79,945 hit

ページ26

 
 
 
 
すぐに、沈黙によって室内は支配される。
忍霧さんは迷っているのだろう。
僕のこの、わかりやすすぎるほど悩んでいる姿に。
この人は優しい。
情報を聞き出すことで、僕が傷つかないかと。
きっと、そればかりを迷っている。
そしてそれに漬け込んで情報を与えようとしない僕は。
······限りなく外道なのかもしれない。

「忍霧さん」

沈黙に耐えきれず、彼に声をかけた。
忍霧さんは戸惑うようにこちらへ視線を向ける。

「僕が差し上げられる情報は、これだけです」

チャリ、と音をさせてカウンターにあるものを置いた。

「なんだそれは······?」
「親戚の子の名前が刻んであるブレスレットです。
 ······パカさんに、渡されました」

忍霧さんの目が大きく開かれる。

「それはつまり······」
「ええ。あの子たちは間違いなくここにいるということでしょう」

恐れがない訳ではない。
でもしっかりした覚悟を持って、僕は忍霧さんを見据えた。

「僕は、これからも捜します。あの子たちを。
 ······そして、ひとつだけ訂正です」

眉をひそめる彼に、僕はそっと微笑む。

「僕は帰ることに執着など微塵もないのです」
 
 
 
 
“······むしろ、ここで消えてなくなってしまいたい”
 
 
 
 
「霧ヶ野······?」

後半は聞こえないほどの声量だったからか、
それとも雨の音にかき消されたか。
聞こえなかったようで言及こそされなかったが、
どちらにせよ忍霧さんに疑念を残してしまったようだ。

「気にしたら負けってやつですよ。
 さて、僕はもうおいとまさせていただきます」
「おい! 待ってくれ」

ブレスレットをひっつかんで歩き出す。
扉の外で降りしきっている雨は、思いの丈冷たかった。

「······『ごめんなさい』」

呟いた声さえもかき消して。
湿った服は心を押し潰す。
ああ。

「もういっそ」

そこまでで口を閉ざした。
これだけは、言うべきじゃない、か。
 
 
 
“死んでしまえば楽なのに”
 
 
 
なんて。
 
 
 

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (40 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
81人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:花藺 | 作成日時:2017年11月8日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。