ク ズ と カ ス . 【赤葦京治】

い ページ13

「赤葦、今日、好きな人来てた？」


いきなり話を変えた私に、赤葦は一瞬怪訝そうな顔をした。

そんなこともう知ってるよ。
でもこれは、諦めをつけるために聞いたこと。だから、もう彼の返事に悲しまない。


「うん。来てくれてた」

「…なら私、あんたに言わなきゃいけないことがある」



最後に、私の二年間の片想いに、さよならを。
赤葦の瞳を見て、交差する視線に微笑む。これで最後にするから。


嘘だと言ったら、なんて言うだろうか。

驚いて呆れる？それとも、軽蔑する？もしかしたら笑われるかもしれない。それならいいと思ったし、笑い話に出来るよう努力しようとも思う。




「私、本当は彼氏なんていない」



多分、それが引き金だった。

赤葦の顔が見れない。下を向くと震えている自分の両足が見えて、ダサいなあなんて笑ってしまった。



「彼氏どころか好きな人だって…ううん、やっぱ嘘。私の好きな人って、努力家で、バカ真面目で、すこしだけ意地悪で何考えてるかよくわかんないひと」



今まで抑えていた想いが、溢れ出す。
これが最後かもしれないのに、私はどこか晴れ晴れとした気持ちだった。

終わりまで、嘘をつきそうになった。好きな人はいないなんて。臆病で、ごめん。




「今私の、目の前にいるひと。名前は、赤葦京治くん。気持ち悪い嘘、ついてごめん。」



口からとめどなく出てくる言い訳のような、愛の言葉。それらはきちんとコイツに伝わってるだろうか。




「赤葦が好きな人いるって聞いて、なんか悔しくなった。どうしても振り向いて欲しかったし、赤葦の恋が実らないでほしい、なんて祈ったりもした」



ねえ、赤葦。
私の大好きな人。諦めたくなかった人。そばにいて、笑ってほしかった人。

泣きたくはなかった。情けない自分を見られたくなかったと共に、私のせいで少しでも赤葦に罪悪感を持って欲しくなかった。





「あかあし、ごめん。」



あ、まずい。

ふいに鼻にかかったような声になる。涙を含んでいそうなソレにきっと赤葦は気づくだろう。そんなのダメだ。


誤解を解くように、じんわりと滲む視界を上げていつもの様に口角を上げ、笑った。





「アンタの幸せ、願えないような、く、クズでごめん。変なうそ、つくような奴でごめん。ともだちでいられないで、ごめん」




どんなに頑張っても、零れそうな涙を堪えたら口角は下がって眉も下がる。

ごめん。泣いてごめんね。





「好き」



ぼろ、と雫がこぼれた。

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