人生に疲れたアイドルはマッドサイエンティストに恋をする【ウマ娘】 (ページ4)

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マンションのエレベーターに乗り込む。

下に降りるにつれて、頭の中で響いていた父の怒鳴り声が、母の叫び声が、小さくなっていく。
小さくなるだけ。消えることはない。

ポーンと電子音が鳴って、扉が開く。
私を苦しめた静寂とは真反対のざわめきに包まれる。安心して、ため息を1つついた。

…さて、どこへ行こうか。
迷いながらも、足は止まることなく動く。
憂鬱な気分のときは、決まってトレセン学園の近くで散歩をするのだ。

ウマ娘たちにとって、走ることは最大の喜びらしい。
喜びに満ちた少女達の、生命の光。
中卒の私には縁のない青春。

ヒトのアイドルにとって、ウマドルは天敵と言っても過言ではない。当たり前のように整ったルックスと、ヒトにはないスタミナを活かしたハイクオリティのパフォーマンスに、私達は叶わないのだ。
しかし、だからといってウマ娘を嫌いになることはない。むしろ大好き。
だから私はわざわざ府中に住んでいる。

公園に着く。トレセン学園から1番近く、ウマ娘や周辺住民が多く集まる場所。

ベンチに腰掛けて、ぐるりと辺りを見回す。
大きな遊具にはしゃぐ子供。熱心にフォームの研究をするウマ娘たち。ぐったりした顔でノートパソコンに向き合うサラリーマン。

たくさんの人生がこの場所に集まっている。皆必死に生きている。私もそう。
夕日が私を包むように照らす。今日もお疲れ様。そう言われているような気分になって、目を閉じる。

てん、てん。
可愛らしい音を立てて、足元に小さなボールが転がってきた。
拾い上げて、持ち主であろう女の子に渡す。

「お姉ちゃん、ありがとー！」

人生の1秒1秒、すべての瞬間が楽しくて堪らないとでもいうような屈託のない笑顔。

『どういたしまして』
微笑みながらこぼした声は、ひどく掠れている。

そういえば、今日は全然水分を摂ってない。先程まで気づいてもいなかった喉の不快感が、気になって仕方ない。

お財布、持ってきてないな…
ぼんやりと考えながらパーカーのポケットを漁ると、小さく折りたたまれた1000円札が出てきた。

名残惜しさに数度振り返りながら、公園を出る。
来た道を引き返して、コンビニを目指した。