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side;Tachyon
思わぬ来訪者に気分が上がって、尻尾がご機嫌に揺れる。
ティーポットに茶葉を入れ、お湯を注いで蒸す。
茶葉が十分に蒸れるのを待つ間に、カップを用意する。
彼女の瞳によく似た色の、雪の結晶があしらわれたティーカップ。可愛いもの好きなスカーレット君が気に入っていたものだから、きっとAくんも喜んでくれるだろう。
紅茶を好まないカフェは珈琲を淹れに席を立ったのだろう。1人取り残されてそわそわしているAくんの前に、用意したティーセットを並べる。
A「わあ、綺麗なカップ！ 私が使っちゃってもいいんですか？」
『勿論だとも。君のような可愛い後輩が来るときのために用意したものだからね』
可愛いという言葉に反応してか、Aくんがほんのり顔を赤らめる。可愛いなんて言われ慣れていそうなのに、ずいぶん初心な反応をする。そんなところも愛らしくて、口元が緩んだ。
カフェも戻ってきたので、トレーナーくんお手製の茶菓子を並べ、紅茶をAくんのティーカップに注ぐ。
A「わあ、この香り…あの老舗メーカーの商品ですよね？ 一度だけ飲んで、すごく美味しくて…。また飲みたいなって思ってたんです！」
『おお、よく分かったね。私もこの茶葉は気に入っているんだ。たくさんストックしているから、いつでも飲みに来たまえよ』
A「本当ですか？ やったあ」
香りでメーカーを当てるなんて、余程紅茶が好きなのだろうか。思わぬ共通点に、また気分が上がる。
A「お菓子もすごく美味しい…！ これはどこのお店のものですか？」
『ああ、それは私のトレーナーくんの手作りだよ。』
A「ええ！！？ 手作り…！？ すごい…」
にこにことお菓子を頬張っていたかと思えば、私の言葉に目をまるくして、まるで小動物のようだ。
口に出さずとも感情がすべて読み取れそうなほど表情豊かな彼女がなんだか面白くて、ふふ、と笑みが溢れる。
『そうだ、2杯目はこの薬を混ぜて飲んでみてくれるかな？』
A「わあ、この薬も先輩の手作りですか？ きれいな色…」
他の生徒にやればたちまち逃げられるところだが、彼女はむしろ楽しげに私の手元を見つめている。
薬を彼女のカップに注ぐ。ピンク色に煌めくその液体は紅茶の赤と混ざり合って、徐々に輝きを失い、溶けてゆく。
彼女は正体不明の薬品を疑いもせず、こくこくと紅茶を飲みだした。
続く
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
