＿＿＿＿ ページ7
「振るなら、一思いにお願いします」
「ッ……」
「黙ってたら、変に期待するのでやめてくださいよ。それでも男ですか、アンタ」
「本気か…?」
――この期に及んで、まさか信じていないと?
嬉しくもないのに思わず笑ってしまう。
確かに今までそういう雰囲気を醸し出したことなど一度もなかったため仕方ないといえばそうなのかもしれない。土方さんからすれば命を脅かす部下ナンバーツー、といったところだろうか。
「勿論。本気ですよ」
貴方の味方でも震え上がるほどの鋭いその眼光も、端正な口から紡がれる仲間を思う言の葉の音色も、酷い偏食家で皆に引かれてるとこも、実はちょっと怖がりで心霊番組を見た後は部屋の電気を消して寝ることが出来ないとこも、大将のため組のために“
「大好きなんです」
真っ直ぐ目を見て伝えよう。＿＿そう思っていたけど、どうしようもなく意気地なしな私は彼の顔が見れそうにない。だから目を細めてとびっきりの笑顔で言ってやった。
万一にも“呆気なく振られた女”なんてレッテルを貼られないように、笑顔で。
「…悪ぃ、お前の気持ちには応えられねぇ」
この一瞬ですら、目は合わない
ズシン、と心にのしかかった重石の痛みを麻痺させるように、笑顔で。
脳では理解していたけど、不出来な心はそう上手くいかないようだ。あれ、今笑えてるかな?
「…そうですよね、分かってます。その…すみません」
結局、逃げるようにして部屋を飛び出してしまった。
どうして自分はこんなにも弱いのか。
あまつさえ、追いかけてきてくれやしないかと淡い期待をずっと抱き続けるのも、
空はこんなに青いのに、自分の心は鉛色で、頬を伝うものが雨なのか涙なのかさえもわからないのも、全部嫌だ。
今、あの目を向けられたら、正気でいられる気がしない。
一瞬でも私を見てくれたら。そう思うことは、罪なのだろうか？
何も、わからない
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作者名：慎 | 作成日時：2022年10月22日 19時
