47.終戦 ページ49
「領域展開・
その領域は、太陽の上だ。
頭上には墨染めされた宇宙。足下には灼熱の炎が地獄へと
その星は熱を上昇し続けて、紅炎を吹き出しては猿謡に飛び散った。
八重は、さきほど奪い返した記憶玉が手中で溶け始めた様子を見て笑った。
「やっぱりね。記憶玉は無期限にストックできる代わりに、2回以上触れたら溶けて消える。つまり1度しか使えない。消えた記憶は持ち主に帰るのかな?」
『そうだ!だが何故、お前は立っていられる?記憶玉を取り返した者は少なからず精神を病むはず!』
「触れてないから。理屈は知らないけど、さっきこの記憶が夢の中に入ってきた」
『触れてない...だと!?』
爪先までにも神経を注いだ八重は、まるで重心のブレがない。
そしてその心臓は、ネズミと同じくらい早く振動していた。
頭にはドーパミンが溢れ出し、新しくできた眼は彼女に第六感を与え赤く充血している。
八重は全呪力をこの一瞬に注いでいるため、今自分が鼻血を出していることに気づいていない。
『...だが、振り出しに戻ったな。これで俺はもう一度、お前に領域を展開できる!』
この圧倒的な呪力量を相手にするのならば、ストックした記憶玉を全て飲み干すまで。
それで互角に並んだら、こっちも領域を展開する。Aの領域はまだ未熟だ。俺が勝つ!
猿謡は自分の背中に手を伸ばした。記憶玉を取り、その口に入れようとした。が。
あまりの違和感に、彼はその玉を2度見した。
記憶玉があまりに軽い...というより、重さがない!?
「残念。それは偽物。背中にあった記憶玉は全部触れて消滅させた。」
そう。「物質化・非物質化」…猿謡の術式と酷似したその術は、八重Aしか持っていない。
『き、貴様アアァアア!!!』
「さよなら」
ボオオオオオ!!!!
全身を焼き尽くす赤い炎に、その呪霊は悶え苦しむ。
その炎は怒りではない。
正義にも本物にもなれなかった呪霊への憐れみと、
両親への慈しみだった。
「...嘘、だろ」
帳が上がった。終戦の合図だ。
その頃、中村は帳外の近くの跡地で4人の学生たちを医療関係者に診せていた。
本来、帳を上げるのは学生の安全を確認した補助監督の義務である。
しかし、中村は帳を上げていない。まだ八重が帳内にいるからだ。
つまり。今、帳を上げたのはーーー
「...特級に、勝ったのか?八重さん」
「全く、応援に来る必要もなかったね」
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tomishiro(プロフ) - また、本作はバトル描写が中心であり、恋愛描写は続編で明確になります。後者をご希望の方はもう少しお時間を頂きます。どうかご確認下さい。(こんなとこで話してますけど) (2022年6月20日 1時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
karenyoshi0308(プロフ) - 八重はいつか夏油と結ばれるんですか?ってコメント頂いたんですけど、難しいところです。 (2022年6月19日 22時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とみしろ x他1人 | 作成日時:2022年6月3日 10時