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35.あなたのようになりたい ページ36

「任務場所が…指定なし?」
「というより、特定できない状態にあります。なので帳を広範囲にしました。
相手はこの準2級呪霊。」


車の中で、ガタイのいい男の補助監督さんが背中越しに写真を渡した。中村さんと言うらしい。
その階級なら数枚で足りるものを、何十枚も記録している。

信号が赤になった。車が止まる。
中村さんはブレーキでなく、わざわざシフトレバーを動かして車をその場に固定した。
後部座席の私に振り向いた顔は、険しかった。


「…これは個人的な憶測ですが、
この呪霊の正体は、八重さんが戦った特級呪霊と入れ替わったモノかと思われます。」
「!」
「帳を下ろしている以上特定できないなんて有り得ませんし、前回と残穢が似ています。もしかしたら…特級がいるかも。
今回も(・・・)、あなたが引き受ける任務ではありません。」


中村さんは、私の返事を待っている。
私はゆっくり瞬きをし、彼の優しさを体に貼り付け、覚悟を決めた。


「ありがとうございます。私のために、調べてきて下さったんですね。」


信号が、青になる。


「行きます。」


ブレーキが外れた。








黒い半球が東京の住宅街を覆っているのが見え、
私と中村さんは車を降りた。


「すごい…確かに広範囲ですね。町ごと呑み込んでいる。中に人はいますよね?」
「ええ。しかし大きいだけです。視覚的効果以外何もない、極めて重大なペナルティを負っています。
そこで八重さんにコレを。」


差し出されたのは、小さなGPSチップだった。


「もし準2級を特定したらできるだけ傍にいてください。あなたを軸に帳を縮め、その効果を上げます。情報が行き届いていない以上、今回は時間を気にして動いて下さい。
"準2級なら倒す、それ以上なら逃げる。"くれぐれもお気をつけ下さい。」


今度は私1人で、巨大な闇に向かって歩き出す。
私はどうしても気になって、中村さんに聞いた。


「あの!どうしてそこまで気を使ってくれるんですか?」


彼は目を丸くした後、活きのいい顔をして言った。


「他の1年生方が言っていました。あなたは、「強くなりたい」が口癖だと。
だから補助監督の僕も、手探りでいいからできることを。」
「…ふっ!」


その言葉に思わず笑ってしまえば、彼も吊られて笑う。
ああ、なんだか初心に帰った気分だ。
私は浅くお辞儀をしてから帳に入った。ぐにゃり、闇に引き込まれていく。


特級(アイツ)への恐怖が、今の私には糧となる。

36.再会→←34.可能性



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tomishiro(プロフ) - また、本作はバトル描写が中心であり、恋愛描写は続編で明確になります。後者をご希望の方はもう少しお時間を頂きます。どうかご確認下さい。(こんなとこで話してますけど) (2022年6月20日 1時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
karenyoshi0308(プロフ) - 八重はいつか夏油と結ばれるんですか?ってコメント頂いたんですけど、難しいところです。 (2022年6月19日 22時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:とみしろ x他1人 | 作成日時:2022年6月3日 10時

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