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「それに、あのチンピラが復讐しようとしたのも、もとはといえば、あいつらがマフィアにケンカを売ったのが原因ですし。ただ私が弱そうで、利用しやすそうだったから狙われて、腕を折られただけです」
ぎこちない左手では、食べるのに時間がかかってしまい、煩わしい。
「それにもう、そのチンピラたちは、別の理由で捕まりましたし。だからこうして、ある程度は自由に出歩けるようになりました」
たぶん、この後、ここまで兄ちゃんが迎えに来るだろうけど。
「織田作ちゃんは?」
「いまだに連絡もつきませんし、会いもできません。あのチンピラ以外にも、私を狙う連中がいるかもしれないって思ってるんでしょうね」
実際いるだろう。今回の件で、良くも悪くも、私は裏社会でその価値を感づかれている。
「私も、もうこっちには関わらないほうがいいと思うよ。これ以上怪我しないためにも。今度はこれくらいじゃ、すまないかもしれないし……」
おやじさんは、心の底から心配して言った。
確かに、ここはマフィアの縄張りの店舗の一つだ。
私がここに通い続ける限り、私はマフィアに関係しているとみられ、容赦なく襲撃を繰り返すだろう。
だから、おやじさんは非情ともとれるその言葉を言った。
わかってる。いや、わかっていた。
ここに来てはいけないこと。関わってはいけないこと。
ずっと前から分かっていた。
ここがどんな場所で、おやじさんがどんな人で、そこへ私よりも通う人がどんな人か気づいたときから。
「わかった……じゃあ、これが最後のカレーかぁ。最後の晩餐はこのカレーがいいなって思ってたけど、それも難しくなっちゃうかなぁ」
「うちのよりおいしいカレーなんて、すぐに見つかるよ」
「だといいけど」
「A−」
カランカランとドアベルの音と共に、聞きなれた声。
「兄ちゃん」
「おや、君が噂の」
「早く食べて帰るよ」
「はーい」
ほとんど止まっていた手を動かし、食べる速度を速める。
「ねぇ、何か甘いものない?」
「はいよ」
兄ちゃんが隣に座り、おやじさんに適当な注文をする。
もっと早く、兄ちゃんここに連れてくればよかった。
ここが一番、私が大好きなお店だって。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年1月29日 20時