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子どもたちが戻ってくるまで、私たちは駅前のベンチに座ることにした。
「誘ってくれて、ありがとうな」
「誘ったというか、前回不完全燃焼だったから、遊園地に行く理由が欲しかっただけだと思います」
「それでも、俺たちは楽しかった」
「楽しさのおすそ分けができたみたいで嬉しいです」
織田さんを見上げれば、織田さんはどこか遠く。
夕日に染まる街のその先を眺めているような気がした。
その横顔が、なんだか怖く感じた。
「何を見てるんですか?」
だから私は、織田さんを引き留めるように声をかけた。
織田さんの瞳がゆっくりを私を見る。
晴れた日の、はるか遠くまで続く海のような瞳。
「平和だなと、思っていた」
再び、織田さんの瞳にヨコハマの街が映る。
私も、つられてビルの立ち並ぶ方を見る。
隙間から、わずかに海が見えた。夕日に染まった赤い海。
「……そうですね。でも、この平和は、この街の黒い部分が表に出ないだけですよ」
「いい世界を生きてきたな」
「いい世界でも、悪いところはあります。両親が死んだとき、兄ちゃんが私のためにたくさん大変なことをしてくれたのを、今でも思い出します。兄ちゃんだって小さかったのに、いろいろ仕事をしてくれた。ここにある平和は、苦しんでいる人たちを踏み台にして、その人たちを覆い隠す平和です」
目を瞑れば思い浮かぶのは、たくさんの大人からかばうように立つ兄ちゃんの背中。
おじさんに言われて初めて気が付いた。私と兄ちゃんが、周りと違うこと。
それで、それまでたくさんの人が、私たちを厄介者扱いしていたことに得心がいった。
「……そうか」
「不思議ですよね」
「何がだ?」
織田さんが、私の方を向く気配がした。
「同じものを見ているはずなのに、まったく違うものを見ているんですから」
「……?」
「織田さんには、別世界の夢のような平和が見えていて、私には、たくさんの犠牲を踏み台にした偽りの平和が見えているんです。でも、どちらも、目の前にある景色に変わりはない。不思議ですよね」
「詩的だな」
「そうですか?」
「ああ」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年1月29日 20時