酔狂な賭け事牡丹【男主】 (ページ13)

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第十章ページ13

極道*

「フィル！」

ドンドン、と指定された部屋の扉を叩く。

弟の名前を繰り返し大声で呼ぶと、かちゃりとドアが開いた。

現れた義弟。

彼は思い切り眉に皺を寄せて、こちらを睨んでいた。

「…… Sta' zitto, fratello.(うるせぇよ、兄貴)」

「ああ!？」

ぐい、とその襟首を掴んだ。

俺も弟を睨んだ。

でも、相手もその表情を変えることはない。

「……あいつに何しやがった」

「兄貴の想像にお任せするよ」

「てめぇ……！」

ふつふつと沸き上がる怒りが、ぷつんと音を立てて切れそうになって。

「そうやって手を出そうとするとこ、変わったよね。

【お客さん】もさ」

「黙れ、死にたいか？」

「日本人はもっと落ち着いてるんじゃなかったの？

全く、紳士の面を破って出てくるのがこれなんだから。

怖いなぁ、もう。

……あいつを、靡かないくらいには躾てるんだから本当に怖いよ」

「……は」

フィルは視線を床に落として。

ぽつりぽつりと言葉を吐き出した。

「兄貴が考えてるようなことは何もしてない。

ただ、俺が想いを伝えたら。

……泣きだしたんだ、シエル。

「ごめんなさい」って、頭まで下げて」

「行けよ」とフィルは、そのまま後方のドアを指で指した。

「俺は店であいつが泣くのを見られるのは嫌だろうと思って、違う場所に連れて来ただけ。

場所がここなのは兄貴へのせめてもの嫌がらせだ。

……俺の立ち位置がもうないのははっきりしたよ。

残りの日は一人でまわるから、ってシエルに伝えといてくれ」

「おい」

ひら、と手を振って去ろうとする弟を呼び止めた。

彼はくるりと振り返るなり。

「……シエルを大事にしなかったら、俺がいつでもあいつを奪いに来る」

弟は俺を指差して、無理に笑って言った。

――

フィルの出番は初回登場シーンで終わらせるつもりだったんですが、椿を書いてる途中で「やっぱりこの子書きてぇ」と思って

フィルはカッコいいんでモテるとは思います

ただ、この子は好きな人がいたらその人のために突っ走っちゃうんで、周りが目に入らないタイプ

葵さんみたいに全部態度に出る子ではないんですけど、外野から「好きだよ」っていわれても「そうか、ありがとう」で終わる