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9 「等価交換」 ページ11

こつん、ドアの前で足を止める。

昼間変なこと考えちゃったから、そのことが気になって気になって仕方がない。

でもこのまま突っ立っとくのもアレだから、と、私は意を決してインターホンを鳴らした。

「ぴんぽーん」、と鳴るその音にすらビクつく。

それからほんの数秒、ドアの向こう側からばたばたと音がして。


「おかえりなさい」


ラフな黒シャツの渡井くんが、にこやかな笑顔を向けてドアを開けてくれた。


『た、ただいま』

「お疲れ様です」


意味もなく二人して同時に一礼。

「大変だったでしょう」なんて、ねぎらう言葉が身に染みる。

おまけに手に持った荷物まで持ってくれるという、何というか、その。


『あ、あのさ、渡井くん』

「はい?」

『そんな接待してくれなくてもいいんだよ?

だって、私が居候してる身なんだし……』


おどおどしながらそう言うと、渡井くんはしばらく考えてから。

へらり、苦笑した。


「そんな。

俺がやりたくてやってることなんで、気にしないでください。

それに、「おかえり」って言える相手がいるのって、結構嬉しくて。

あ、ご迷惑でしたか」

『い、いや、全然、全く』


顔の前で手を振れば、渡井くんは「ならよかったです」と破顔する。

そこで、ふと思ってしまった。

こんなに色々気を配れる子なら、私みたいな年上の捨てられた女に興味はないだろうと。

もっと可愛い、綺麗な女の子をすぐにでも彼女に出来るだろうと。

そういや、言ってたな。

「想い人がいる」って。

「だから、キスの練習をさせてほしい」って。

私を誘ったのは、そのため。

あくまで「住居」と「キスの練習台」という等価交換を、彼はやってくれているだけなのだと。


「……雨野さん?」


はた、と渡井くんの声で我に返る。

彼は不思議そうな表情で私の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫ですか?

体調、悪いとか」


彼は早く知るべきだ。

私みたいなのが一緒に住んでる、なんて前科があったら、貴方の想い人はきっと嫌がるって。

「同情なんて捨てていいよ」、これさえ言ってしまえばいいのに。


『……ううん、平気』


言わない私も、大概我儘だ。


「だったらいいんですけど……。

あ、ご飯出来てますから食べましょう」

『私は渡井くんに後光が見えるよ』

おしらせ→←8 「こういうこと」



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ニコちゃんマーク - めっちゃ面白いです!最新待ってます!文字ってどうやったらこんなのにできるんですか? (2019年7月30日 8時) (レス) id: c2a6a5489d (このIDを非表示/違反報告)
かなと - なまむぎ。さん» この作品大好きです!更新待ってます!! (2019年7月30日 6時) (レス) id: b9832c7634 (このIDを非表示/違反報告)
リリィドール*ガチめに低浮上(プロフ) - 更新が停止となっていて、すごく衝撃を受けていた者です笑。また更新が再開されるとのことで、すごく嬉しいです!作者さんのペースで無理しない程度に頑張ってください!応援してます♪ (2019年7月15日 0時) (レス) id: e60ca59755 (このIDを非表示/違反報告)
なまむぎ。 - このお話とても大好きです!更新頑張って下さい! (2019年4月22日 20時) (レス) id: 51d094ad46 (このIDを非表示/違反報告)
Dream★World(プロフ) - この作品好きなので、移転先教えてください……!!! (2019年2月3日 18時) (レス) id: 093bdce514 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:空弥 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年7月29日 0時

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