リアリストの葛藤【２】 (ページ12)

今日:5 hit、昨日:8 hit、合計:29,920 hit

62 見学-3 ページ12

〈慎SIDE〉

今日はCM制作の一環でコラボするイラストレーターさんが見学に来る日。

普段なら「あ、はい見学ですか、いつも通り頑張りますね」という感じなのだが、今回は少し違う。

というのもそのイラストレーターさんが海青さんの知り合いらしく、事前に話を聞いていたのだ。

海青『今度見学に来るイラストレーターの人俺の知り合いなんだけどさ、絶対誑かさんでね』

慎『何ですか急に、しませんよ。彼女さんですか？』

海青『ではない、けど』

慎『狙ってる人？』

海青『とにかく！迂闊な事言わないで』

普段さっぱりした性格の海青さんが急に面倒な事言い出してマジなんだなぁと思ったのを覚えてる。

正直彼女であろうとなかろうと、個人的に仕事の相手は仕事の相手なのでなにかあることは無い。

ただまぁここで即答しない事には彼の不安は払拭されないだろうからすぐに「了解です」と答えた。

見学の最中、陣さんに呼ばれて行くと、今日居ない海青さんの代わりに、動きの確認としてクランプを見せてあげてほしいとのこと。

海青さん自分で見せたかっただろうにと思いつつも、仕事なので会釈をして音源を流した。

慎「えっと、じゃあ、やりますね」

頷くのを確認して足を踏み込む。その瞬間彼女の目が変わったのが分かった。

先程までの柔和は瞳は無く、獲物を狙う様な強い視線がそこにはあった。

目線は俺に向けたまま、手元では次々とスケッチが行われている。ブラインドタッチならぬブラインドスケッチ。

凄いなこの人…

まだ構想段階なので、とりあえず一通りクランプの動きを見せて音源を止める。

慎「こんな感じですが、大丈夫そうですか？」

「はい！ありがとうございます！」

端末から目を離し彼女に向き直ると、ほくほくと満足気な顔をしていた。

その表情を見てなるほどなと納得。

これは、あのストイックな海青さんが惚れるのも分かる。

特別可愛いとか、華奢とか、綺麗とかそういう感じではないけど、ただ愛らしいのだ。

うまく説明できないが、守りたくなるというよりは可愛がりたくなる様な…

慎「お役に立てて良かったです」

彼は割と自立した女性を好む傾向にあるなぁと思っていたし、この仕事への熱中具合もツボだったのかも。

覗き込んだノートには既に沢山のスケッチと、デザイン画がある。

ーーー
→