愛を彷徨う人 … 32 ページ48
…なんであんなこと、言っちまったんだ…
与えられた部屋に戻り、オレは憤りの余りデスクに拳を叩き付けた
浮かぶのは、病床の父の姿…
大きく逞しかった父は、子供の頃のオレのヒーローだった
皆川家は、代々名家の執事として生きていくのが慣わしだった、オレの祖父さんの代までお仕えしてした家が、ボンクラ当主のお陰で財産その他全てを失い没落した為、祖父さんの死後、親父とオレは違う家に移ることになった
その家は前と違って当主がかなり凄腕の経営者らしくて、先代から引き継いだ会社をトップレベルの位置にのしあげたらしかった
ただその分自身のプライドも異常に高く、使用人だろうと家族だろうと自分以外への扱いは、相当に威圧的なものだった様だ
奥様との間には二人のお子さんがいたと思う
上は女の子、下が男の子
でも、顔を見たのは数回程度だった
なぜなら使用人の息子のオレは、本宅に立ち入ることは許されず、同じ敷地内の片隅に与えられた宿舎みたいな小さな家に住んでいた
オレは母親とは小さい頃に死別して、親父と二人暮し…、思い出は数少ないが、親父やオレに向ける笑顔は、いつも心が暖かくなるほど優しかった、母が亡くなった後は、親父が二人分の愛情をオレに注いでくれた
家族とはこんなにも安らぐ場所なのだと、子供心に、この父と母の元に生まれて良かったと思っていた
「いいか耕作、皆川の人間は、初代から執事として当主とその家を守る為に、全力でお仕えしてきた、心を強く持ち、常に己を律し家名を守る為にご奉仕しなくてはいけないよ」
折に触れて親父はオレにそう言い聞かせていた
執事と言う仕事に、誇りを持っていたからこその言葉だった
だが、父はこの家で執事として務めるようになってから様子が変わってきた
仕事を終え戻ってきた父は、いつも疲れた顔をし、気付くとボンヤリと考え事をしてる事が多くなった
笑顔を見せることも少なくなり、前ほどオレと話をすることも無くなった
「父さん、何かあったの?」
「いや、何も無いよ…、ただ、上流階級という世界は…ここまで人を非情にさせるものなんだと、とても苦しくなった…」
「苦しい…?」
「家族とは、一体なんなんだろうな…、一つの命に何の違いがあるんだろう…」
父の目から涙が一筋流れ、ギュッとオレを抱き締めた
「父さん…?」
「耕作…すまない…」
その涙の本当の意味を知るのは、親父が亡くなるその瞬間だった
誘拐…その言葉が、オレの人生を変えた
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GAYASAKURA(プロフ) - まいまいさん» 思います、数ある書き手様の中から見つけて下さり本当にありがとうございます!ご縁を頂けて嬉しいです! (2020年8月5日 21時) (レス) id: a6c9395ed2 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - まいまいさん» こんばんは!連コメありがとうございます!長々と引き伸ばしておりますが、少しでも楽しんで頂けてたら何よりです!えち展開もありますが、サラッと流して頂ければと思います、《I wish》や《雪華》も似たような展開なので、またお時間ある時にお越しいただければと (2020年8月5日 21時) (レス) id: a6c9395ed2 (このIDを非表示/違反報告)
まいまい(プロフ) - 皆川が怪しくて気になりますが、ついに2人が一緒に暮らせるようになったので大満足です!!そしてニカも。2人が結ばれるところを早く読みたい〜HEATの宏光と太輔が楽しみすぎます!! (2020年8月5日 20時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - pochiさん» また読み手様の失笑を買いそうです笑笑、ある程度纏まったら触りだけアップしたいと思います!コメ大感謝です! (2019年6月11日 19時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - pochiさん» 移行になりました!6章ほ100作目になるので、ココで家族にしてあげたいんですが、どうかなぁと言うところです、ホントに書きたいのは、家族になってからなんですけどねー笑、引っ張りすぎたなぁと反省しております、次作も考えておりますが、これも長編になりそうで (2019年6月11日 19時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:GAYASAKURA | 作成日時:2019年5月5日 2時