君想う夢・君恋し花 …５

愛を生む人 … ５０ ページ5

「ゴメンなさいね…急に」
「いえ、…オレこそ、あの日は失礼しました…」
「いいのよ、私が失礼な言い方をしたんだから、智久さんが怒るのも無理はないわ、貴方のことも傷付けてしまって…申し訳なかったわね…」

「いいえ、オレはそう思われても仕方ない人生を送ってきたので、…でもこの子は本当に智久さんの子です、それだけは疑って欲しくない」

そう言うと、雪乃さんは表情を曇らせ俯いた

「…本当に智久さんとの子なのね…」
「はい、絶対に間違いありません」

雪乃さんは、疲れた表情で一つ溜息を吐いた
その様子を見ていると、本当にこの子は望まれない命なんだと深く思い知らされた、

この子を守ってやれるのは、オレしかいないんだ…


「アナタは、櫻華楼の花魁だったのよね…いつから櫻華楼に…？」

会話の流れが変わったことに、オレは少し戸惑った、

「一歳前後に店の前に一人置き去りにされてて、でも身元を示すものは何も無くて、当時のオーナーがオレを引き取ってくれたんです、オレは廓で育ちました…櫻華楼しか生きていく場所が無かったから…」

「一歳前後で、置き去りに…？」

雪乃さんの目が見開かれ、瞬きもせずオレの顔を見つめた

「本当の誕生日は、分かりません、年齢も…でもまだ歩くことも覚束無い頃だったので、多分それくらいなんだろうと、診察した医者が言ったそうです、本当の名前も分かりません…北山宏光は、オーナーが付けてくれました、オメガ性なのも、その時…」

「そう……」

オレの中に何かを探すような強い眼差しに、思わず下を向いた
どうしてこの人は、いつもオレをこんな風に見てくるんだろう…

でもそれを尋ねる事も出来ず、オレはなるべく視線を合わさないよう注意を払い、言葉を続けた

「オレがオメガだから、捨てられたんだと思います…、世間一般でも、オメガは忌むべき存在です、現にオレの親も結局オレを探すことはしなかった…、母親も、きっとオレを産んだ事を後悔したんだと思います…それで…」
「違うわ、ソレは違う…っ、」

「え…？」

激しい否定に、オレは俯き加減の顔を上げ、その人を見た

「絶対に違う…、母親が大切な我が子を捨てたりなんか、する筈ない…」
「雪乃さん…？」

「探さなかったんじゃない、探せなかったの……私がアナタを最後まで守りきれなかった…」
「雪乃さん、…何を…言って……？」


「宏光さん、私の話を聞いて欲しい、アナタは…」






その瞬間、オレの中の時間が止まった…

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