君想う夢・君恋し花

愛を売る人 … ７ ページ8

初対面だし、ホントに抑制剤なのかも分からなくて受け取るだけに留めると、トモは、ｸｽ…と忍び笑いを漏らした

「そりゃ警戒するよね、もしかしたら妙なクスリかもわかんないし」
「あ、いえ…疑ってるわけでは…っ」

客に対して失礼な態度だと店にクレーム付けられると、オーナーから激しい叱責を食らう、そして無茶な客取りをさせられるコトもある

焦ってそう答えると、トモは目尻を緩く下げて微笑んだ、近寄り難いほど整った綺麗な顔が、微笑むことでその雰囲気を和らげる

「心配しなくても怒ったりしないよ、オレは産科医だから…ΩのHEATは慣れてる、でも君からは一般のΩとは違う香りがする…もっと濃くて甘い…危うさを伝えてくるような香り…、名前は？」

「ミツ…です…」
「ミツか…、オレは山下智久だよ、ホントの名前は？」って聞かれて、オレは戸惑った、ここは一夜の触れ愛に重きを置く廓だ、客も本当の名前を告げることは無い
聞くことも禁じられていた

ただ一夜の愛を売るだけで、情交が済めば何も無かったかのように別れる…

なのに、この人は職業だけで無く本名まで名乗ってきた

「まだ言う気にならない？オレは隣町の相澤総合病院に務めてる、年齢は…」

山下さんは、ほっとくとペラペラ自分の個人情報伝えてきそうで、オレは耳を塞いで頭を振った、世の中には聞いてはいけないコトもあるんだって！！

「も、もういいです！宏光…北山宏光…、それがオレの名前です…でも、コレはこの店の前のオーナーが付けてくれた名前だから…」

「どういう事？」

「オレ…2歳の時に、この店の前に置いていかれたんです…捨てられたって言う方が合ってるのかな…」
「そうなの？」
「はい…」

「それは、キミがΩだから？…あ、すまない…」
山下さんは、言い過ぎたと自覚したのか口に手を当てて、神妙な顔をした

心から申し訳無いと思ってる…それが仕草から見える
この人は、悪い人じゃない…オレの直感がそう伝えてきた

「いいえ、…多分そうだと思います…」

Ωは希少種だ…そしてカーストの最下層に位置する、Ωを産んだと言うだけで周りからの目は相当に厳しくなる…

同じ命なのに…、オレの誕生は、母親からも祝福されない運命だった

「名前も言えないオレに、前の櫻華楼のオーナーが付けてくれたんです、《広く光差す人》になれって…、実際は、光なんかどこにも当たらない人生なのに…」

「なら、光ある場所を目指せばいい…」

トモはそう言って、フワリと微笑んだ

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