LOVE CASTE … 恋哀階級 vol.２

CASTE … ７４ ページ28

｢うーん、いつも思うけどこのシャンプーいい香りする｣

オレの髪にドライヤー当てながらわしゃわしゃしてる太輔が、ふと手を止めクンクン鼻を鳴らした

｢ヒロこの香り好きなの？ボディーソープも同じブランドだよね｣
｢ん？…ああ…だったかな｣

コレはいつもトモが買ってくる…多分アイツの自宅にも同じものがある…オレの家から自宅に戻った時に他の香りがついてるとめんどくさいから…って結婚したすぐ後にウチに一揃い持ってきた

付けてる香水も同じ…

用心してる…て言えばそうなんだと思うけど、コレを使うたび、残り香に強くトモの存在を感じてしまう

ほら今も…太輔オレの髪を指先で解くたび、トモの香りが部屋に満ちていく

まるで《オレ以外誰にも心を向けるな》と、香りを通して言われているようだった

｢ヒロ髪キレイだよね、男なのにサラサラしてる｣
｢そんなん言うのお前くらいだし｣
｢オレ好きだな…この手触り…｣
｢変なヤツ｣
｢えーそう？｣

他愛もない会話…テレビも付けてないから、この部屋にある音はドライヤーの音と、太輔の心地いいトーンの声だけ…

トモといる時の、罪悪感を含んだ時間の流れ…何かに急き立てられるように二人で抱き合う時間
は、コトが終わったあとは愛しさを超える寂しさしか残らなかった…トモから掛けられた言葉、触れる肌…濃く深く愛し合うほど、見送る背中はこの関係の虚しさを伝えてきた

太輔といると、時間の流れは緩やかだ…
触れてるくる手は、こんな風に優しい…

ソファに座った太輔と、床に座ってるオレ
気持ちいい温風と撫でられる感触に、何だか全部が赦されてる気になる

なんとも思わずクイッと上を向くと、見下ろしたタイミングで太輔の顔が至近距離にあった

見つめる瞳に吸い込まれるような…誰にも感じたことのないその感覚がオレの戸惑いを呼ぶ

｢あ…悪ぃ…｣
｢うん…もう乾いたから…いいかな｣

互いに目を反らせ、ぎこちない会話を交わす

｢…お前んちって、なんか商売してんの？｣
気まずさに思いついたネタを口にすると、太輔もホッとした表情を向けてきた

｢うーん…いわゆるモノづくりかな｣
｢へー、ならお前技術屋なんだ｣
｢まあ、そうかな…、ヒロは？そう言えばオレ、ヒロの仕事知らない｣
｢オレ？営業マンだよ…製薬会社の！｣
｢製薬…会社…？｣

｢うん、J・STAR製薬って知ってるか？｣

その瞬間、太輔の表情からいつもの柔らかさが消えたように見えた


｢J…STAR…────？｣

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