雪華 … Snow Crystal ７

君のいる世界 …９ ページ49

｢龍樹は澤嶋一真さんのコト、いつから知ってたの？｣

食事会がお開きになり、澤嶋一真は迎えに来た車で店を後にした、ホテルまで送りますよと誘いを受けたけど、龍樹は｢お気遣いなく…｣とやんわり断った、まあ関東と関西のトップが同乗と言うのも具合が悪いんだろう…

車が見えなくなった時、私は尋ねてみた

｢直接な関わりは無かった、オレが藤ヶ谷のオヤジさんのトコに世話になり始めた時には、澤嶋さんはもう《十六夜》に行っていたからな、時々想い出話を聞いていたくらいだ…太輔坊と同じ年の男の子がいるはずだと言っていた、まさかその子と太輔坊が惹かれ合うとは思わなかったけどな…これが運命ってヤツ、…なのかな…｣

そう言って龍樹は、ｸｽ…と忍び笑いを洩らした
その小さな笑い声聞きながら、私は最後に龍樹の笑った顔を見たのはいつだっただろう…と
記憶を巡らせた、

｢…なんだ、なにかオレの顔についてるか？｣

居心地の悪そうな表情を私に向け、プイっと龍樹は私から視線を反らせた

｢龍樹もちゃんと笑えるんだと思って｣
｢当たり前だろ、オレにだって喜怒哀楽はある｣
｢…そうね…でも、サヨナラしてから龍樹の笑顔…一度も見たことなかったから…アナタは全てを拒絶してたから…優しさも温もりも、愛も…｣

ピクリ…と龍樹の目尻が僅かに動いた

｢…藤ヶ谷のオヤジさんの悲願を叶えるには、必要ないものだ…｣
そう言った眼鏡の奥の瞳が、微かに揺れた…

｢今は？…今もまだ、自分には必要ないと思ってるの？｣

問いかける私に龍樹は何も言わず、｢帰るぞ｣と促した

二三歩先を歩きながら、私を振り返る、そして徐に手を差し出してきた

｢え…｣
｢…たまには、いいだろ…｣
ぶっきらぼうな口調と、バツの悪そうな表情

そのままグイッと手を引かれて歩き出す
最初早足だった龍樹の歩調が、私に合わせるように歩みの速度を変えていく

やがて私達は肩を並べて歩くようになる…
付き合い始めた頃の龍樹は、いつもこんな風に不器用な優しさを私に示してくれていた

｢ﾌﾌ、懐かしいな…｣
｢何が？｣
｢いろいろ…、ねぇ今日歩いて帰ろ！｣
｢オマエ歩けるのか？ホテルまで少し距離あるぞ｣

｢一人なら無理だけど、二人なら大丈夫｣

そう答えると、龍樹はハッとしたような表情を浮かべ、私に視線を向けた…

｢そうだな…｣

短い一言…そしてまた重なる手のひら…



季節を跨ぎ…龍樹と私の時間が、少しずつ戻って来ているような気がした…

君のいる世界 …１０→←君のいる世界 …８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す