雪華 … Snow Crystal ７

君のいる世界 …７ ページ47

｢《身を呈して》の言葉通り、私は何とか全面対決を回避できないかと模索しましたが、会長は私の話に耳を貸すことはなくてね…挙句代わりの者を立てると言い始めた、手柄に執着し荒ぶるだけのヤツを行かせれば結果は目に見えていた、悩んだ末、私は極秘に藤ヶ谷さんに連絡を取りもはや全面対決は避けられない状況を伝た、そしてあの日…｣

唇を噛み締め、澤嶋は一旦言葉を止めた…
座卓に置かれた手が、苦しみを握り潰すように結ばれる、そして再び口を開いた

｢湿った空気がベットリ纏わりつく、イヤな日だった、…藤ヶ谷さんが《十六夜》本部に乗り込んできた、それも一人で…知らせを聞いた私は、一体何事かと《十六夜》本部に向かった…あの人は会長に、この身と引き換えに《如月》との全面対決から手を引けと言ってきました、例え《如月》での地位は低くても、《藤ヶ谷》の名前と実力はこの世界に身を置く者なら知らない者はいない…、そして会長はその条件を飲んだ…｣

ああ、覚えてる…突然いなくなった太輔の養父を、いつも冷静な龍樹が必死になって行方を探していたことを…ふと隣に座っている龍樹を見やると、その日を思い出しているのか背筋を伸ばし微動だにせず、目を閉じていた

｢…会長はその役目を私にしろと命じた…恐らくは《踏み絵》の様なモノ…私がどこまで《十六夜》に忠誠を誓えるかを試していたんだと思う……出来るわけが無かった…《如月》で粛正される寸前の私を、立場を捨ててこの世界に留めてくれた人を、この手にかけるなんて…ッ｣

澤嶋の目から涙が溢れた…龍樹には身を切られる程ツラい話だろう、澤嶋の顔を見つめる龍樹の瞳にいつもの冷静さは無かった

｢澤嶋さん…藤ヶ谷のオヤジさん、自分で命を終わらせたんですよね…｣
ポツリ…と龍樹が問いかけた

｢なぜそれを…？｣

｢会長から若頭に選任された時に…、惜しい男だったと…｣

｢……あの人は…手が震えて引き金を引けない私に《いいか、オレを犬死させるな》と言って…そして笑って…自ら引き金を……ッ｣

澤嶋が抑えてきた感情が堰を切ったように、抱えきれない悲しみや苦しみが涙になって溢れていた…

｢もう止めましょう…澤嶋さん、アンタも同じだけ苦しんだんだ…そして、そこから今の地位を築いた…《無双》の件、助かりましたよ｣

｢《如月２代目》の《太輔坊》のお役に立てたなら何より…｣
そう言うと、澤嶋は薄く微笑んだ



｢澤嶋さん、ついては宏光さんのコトですが…｣

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