雪華 … Snow Crystal ５

RHAPSODY：３１ ページ45

｢…太輔ッッ！｣

あの人の、振り絞るようにその名を呼ぶ声に突き動かされ、僕は居場所を聞き出すとすぐに車を走らせた…

オフィスか…どんなに急いでも車で３０分はかかる…

マンションの窓から見える雨空よりも、車を打ち付ける雨の方が勢いも量も多かった

最後の交差点を入ると見えてくるオフィス
車を横付けしてドアを開けると、リアルに地面を叩くような雨音が耳に入ってきた

視界にその人らしい姿がない…
ココはオフィス街…この時間は人影自体がまばらだった

｢北山さんッ、どこです？｣

姿が見えないコトに不安が募り、僕は名を呼び、目でその存在を追った

諦めて帰ったのか…？

強くなる雨足…止む気配は無い、こんな中…あの人はドコにいるんだ…


辺りを見渡した時…

エントランスから死角になってる角柱の傍に、半分だけ背中が見えた

その肩から腕のラインが、オレの記憶してるカラダと酷似していた

左手首に付けたアクセが、街灯の光にキラリと照らされる

｢北山さんッ？｣

近寄って声をかけると、振り向いた顔は紛れもなくその人だった、ほとんど雨避けにならない場所、髪も服も水をバケツの水をそのまま被ったような有様だった…


それでも僕の顔を見るなり唇を淡く緩め、吸い込まれるような眼差しを向けて来た


｢何でこんな…ッ、ずぶ濡れになってまで待ってるなんて…どうかして……、ッ？｣

僕の言葉を遮るように、北山さんのカラダが胸元に飛び込んで来た


｢…絶対来てくれるって…信じてた…だから待ってた……ずっと…ずっと待ってたんだ……｣

か細い声…、それとは対照的な強い想いが背中に回された腕から伝わってきた…

迸るように愛しさと切なさが、全身を駆け巡る…

縋りつく雨で冷えきったそのカラダを暖めてあげたくて、僕は包み込むように胸に抱き締めた…


何もいらない…

この人さえいれば…



だけど…


｢…太輔…ッ、太輔会いたかった…｣

求め呟かれた名前は、僕の名前では無かった…

そう…この人が想いを寄せてるのは《太輔》だ…
僕と同じ顔をした《僕じゃない》人

落胆の気持ちは隠せなくて、僕は胸元の北山さんのカラダをそっと押し返し、目を逸らすようにしながら伝えた


｢…間違えないで下さい、僕は《雅喜》です…｣

無性に寂しかった…この先も自分を見てもらえない現実を突きつけられたような気がした


｢違うッ！オマエは《太輔》だ！オレがずっと待ってた《藤ヶ谷太輔》だろ？分かんねぇのかよッ！｣

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