雪華 … Snow Crystal ５

RHAPSODY：２４ ページ38

あんなに聞きたがってた高校時代の話を避けるようになり、表情から笑顔だけが消えた…

黙り込み、切な寂しい表情で好きなカシオレを頼んで来る

気にはなるけど、そこは客商売…むやみに立ち入れない…話せるようになるまで待つしかないと、オレは様子を見ていた

決定的なあの日…

閉店間際に飛び込んできた佐倉は、明らかに泣いた顔をしていた

定位置のカウンター端に座ると

｢横尾くん、アルコール高めのカクテル飲みたいな…｣と水分を含んだ赤い目を向けてきた
オレと目が合うと、ムリに笑顔を作ろうとする…

｢…笑わなくていいぞ、ちょっと待ってろ…｣

酔いたいんだろうな…と言うのが分かるから、ドアに《CLOSE》の札をかけた、

｢ほら、マルガリータ｣

テキーラベースのカクテル…
いつも佐倉が飲んでるのより、少しだけキツめにした

｢ありがと…｣

カクテルグラスを手にすると、一気に流し込む
｢おい、ムチャ飲みすんなよ｣
｢いいの！…お代わり欲しいな、同じの…｣
｢しょうがねぇな…｣

せいぜい3杯が限界だろ…と二杯目を差し出した

｢…なんも聞かないんだね、横尾くん…｣
｢佐倉が自分から話したくなるまでは、聞かないよ…｣
｢そか……まだ少しムリみたい…｣
｢なら、また来ればいいだろ…ココは来るものは拒まずだから…｣
｢去るものは？｣
｢ん？、オレが気になったら追うかな？｣

クスクス笑ってた佐倉…不意にその顔が哀しげに歪みオレから顔を背けた

｢佐倉…｣
｢ゴメン…私……サイテーなコト思ってる…人の不幸を、…今、心から望んでる…｣

ソレが何を意味するのかは分からなかったけど、オレには佐倉自身が不幸のどん底にいるように思えた

｢例えそう思っても、佐倉は出来ないよ…｣
｢どうして…｣
｢ん？、佐倉は優しいからな…優しいから、オマエそんな風に泣くんだろ……｣

ポン…て頭に手をやると、佐倉はポロポロ涙を零した…

あの日から、佐倉はよくココに来るようになった…相変わらず何かを吹っ切れてないのは分かるけど、ヨソの場所でこんな風になるよりはマシだよな、とオレは思っていた

こんな無防備な姿…

変なヤツに目をつけられても困るし、とオレは佐倉に対して妙な保護欲を掻き立てられていた

やっぱ似てんな
高校時代のあの純粋無垢なヤツに…



けど、オレは知らなかった…


太輔と佐倉とミツの、今の関係…


邪な企みによって歪まされた佐倉の胸に湧く、黒く激しい負の感情



そして、引き起こされる哀しい出来事を…

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