雪華 … Snow Crystal ５

RHAPSODY：１０ ページ24

北山さんを見送ってから、オフィスに戻る…

あの人がさっきまで座っていたソファに目をやりながら、自分のオフィスチェアに腰を下ろした、背もたれをいつもより深めに倒し、ヘッドレストにアタマをもたせ掛け天井に目を向けた…

ハァ…と知らずため息が漏れる…

浮かぶのは、後部座席の窓から僕の顔を見上げる北山さんの顔…、今だけ２人の距離を近づけたくて｢宏光…｣と呼んでみた…

僕からの名前呼びにピクリと肩が震たのがわかった、もしかしたら…この人の姿を目に出来るのが最後かもしれないと思い、｢顔上げて…｣と頼んだ…

初めて会った時と同じ…印象深い黒く澄んだ瞳は、僕の心の奥にある言うに言われぬ感情を呼び起こす…惹かれて、愛して…そして虜になる…

だけど…その想いは表には出せない…もう一方で僕のコトで傷付いてる人がいるから…身勝手な僕の感情で泣かせてしまった…菜月…

北山さんは多くを語らなかったけど、菜月が彼にマイナス感情を吐露したのは明らかだった…

何をどう伝えても、今の菜月を納得させるコトなど出来はしないのは分かっている…僕に出来ることは、菜月の冷えきった気持ちが体温を取り戻すまで、北山さんへの思いを封印することだった…


全てが終わるまで、僕はあの人を追わない…


誰かを傷付けて手に入れた恋は……

きっと、誰も幸せにならない…


目の前の現実から逃げ出したい思いを押さえつけ、僕はデスクチェアを戻しアタマを仕事に切り替えた


決裁書類やら、稟議書…《如月》のグループ関連の書類に目を通してると、

｢専務！、今帰りましたぁ｣

と二階堂の室内の空気をガラッと変えるような元気な声がした

｢…お帰り、ご苦労だったね｣
｢ミツ、ちゃんと送り届けてきました！任務完了っス！｣

敬礼する様にポーズ決めてくるけど、えっとツッコむトコはそこじゃなくて！

｢二階堂、なんでミツ呼び？｣
｢あ、オレがニカって呼んで欲しいので、ミツと呼ぶコトにしました｣
｢…んー、若干質問の趣旨が違うんだけど…｣
｢え？｣

キョトン＆アヒル口…
ま、まぁいいか…な…

｢二階堂、北山さんと仲良くなったんだな｣
｢仲良いかはわかんないスけど、オレあの人の感じキライじゃないです、てか専務が好きな人はオレも好きです！｣

単純明快な二階堂に、沈没しかけた僕の気分は少しだけ上向きになる…


そして別途気になっていたコトを尋ねた


｢二階堂、ココを出てから特に変わったことは無かったか？｣

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