雪華 … Snow Crystal ５

RONDO：２９ ページ14

｢悪いと思ってる…君を傷付けた償いは何でもさせてもらう…、だけどもう…君とこれからの時間を過ごすのはムリなんだ…わかって欲しい｣

何を言っても詭弁なのはわかっていた…
向けてくれた菜月の想いを踏み躙るコトをしているのも…

どんなに責められても詰られてもいい…

｢…私と別れても、北山くんがアナタを受け入れることなんか絶対に無いわ…カレが今でも心惹かれてるのは、アナタの弟の藤ヶ谷くんよ！｣

｢知ってるよ、それは彼に会った時から分かってる｣

あの校庭で、僕を見つけ縋り付き《太輔》とその名を呼んだ瞬間から、あの人の心にはこの先も太輔しか存在しないコトを思い知らされた

｢それでも北山くんがいいの？…同じ顔をしてるから、いつか自分を見てくれるとでも？アナタは雅喜よ！太輔くんには絶対なれない！｣

｢太輔になろうなんて思ってない…なりたいと思ったこともあったけど…今は違う、時間がかかっても構わない…僕を…《如月雅喜》だけを見てくれる日を待つつもりだ…｣

｢なら私は？アナタを…如月雅喜だけを見てきた私は？…ねぇ雅喜ッ！私を好きだと言ってくれたアナタは一体誰なの？｣

アナタは一体誰なの？…

悲痛な叫びに、僕は返す言葉も見つからなかった…

｢…ゴメン…っ、菜月……｣

絞り出すように出した言葉は、謝罪しか無くて…

今は目を逸らすことだけはしないと決めた、菜月の傷付いた顔を忘れることだけはしてはいけないと思った

真正面にいる菜月…

いつも優しく僕を見つめていた瞳は、輝きを失い、溢れる涙を止める術を無くしていた

キレイな声で《雅喜》と呼ぶカタチのいい唇は、引き結ばれ苦しそうに震えていた

｢どうして…｣
｢…菜月…｣

｢どうして私の好きな人は私を好きになってくれないの…？太輔くんもアナタも…どうして北山くんじゃないといけないの？…北山くんなんか、いなくなればいい…ッ！｣

｢菜月ッッ！｣

席を立ちカラダを翻らせ、菜月は店を飛び出した
弾みでコーヒーカップが転がり、真っ白なテーブルクロスに濃いシミを作った

店員が慌ててコチラにやって来る

｢すみません…申し訳ない…｣
｢いえ、お気になさらず…｣

店員がチラと出入口を見た

僕は菜月を追いかけることが出来なかった…違う、追いかけたとして一体僕に何が出来るんだろう…


そして僕は知る…

自分が菜月の心に付けてしまったキズが、この零れたコーヒーのシミの様に、真っ白だった菜月の心を黒く染め広げていくことを…

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