雪華 … Snow Crystal ３

１２６話 ページ34

テーブルの上のキーケースを持ち、オレは太輔に食べさせるモノを買いに外に出た


歩いて10分くらいの所にあるスーパー
｢…まだ熱あるしな…お粥か雑炊だよな…｣

母ちゃん、オレが風邪引くといつも作ってくれるけど、オレ作ったことねぇな…んーレトルトでもいいか

後は…アクエリとゼリー…そだ、アイスも買っとくか…

思いつくモノをカゴに入れレジで精算…

ギリ金足りたわ、よかったぁ


袋に詰めて来た道をもどる、

｢一人にしないで…｣
｢ここにいるよな…？｣

あんな顔して言われたら、帰れるワケない…

目が覚めた時、傍にいてやりたかった


自然と急ぎ足になる

けど、マンションのエントランスが見えるにつれ、オレの歩みはつと遅くなった


路駐の黒塗りの…外車…
あの日、止まってた車と同じだった…

射るようなキツい眼差しの男…

足早に通り過ぎようとした時、パワーウインドウが下りた

｢どこに行く？｣

今、通りにはオレしかいない…
歩みを止め、オレは声の主を振り返った

｢どこに行くと聞いている｣

メガネの奥の切れ長の目が、オレに挑みかかる様な視線をぶつけてくる

今まで出会ったことのない種類の人間なのは、その醸し出すオーラですぐ分かった

｢誰だよ、アンタ｣
｢キミに答える必要性を感じない｣
｢…ならオレもそうだ｣

無視してエントランスに入りかけたオレの腕を車から下りてきた男が掴んだ

｢離せよッ｣
｢いいか！、オマエに太輔坊の傍にいる資格など一欠片もない、穢らわしい疫病神が！｣
｢は？｣

穢らわ…しい…？

｢お前など…｣

掴まれた腕に、憎しみの混じった痛みが走る…
身の危険を感じるほどの殺気が、その男から漂っていた

｢…っだよ、テメェ｣
｢消えろ…金輪際、太輔坊に近づくな、さもないと…｣

｢龍樹止めてッ、何してるのッ！｣

突然聞こえた声が、男の瞳に宿った殺気を削いだ

｢ユリ…オマエ、あれほど言っておいたのに…｣
｢…人の気持ちを思い通りになんか出来るわけないでしょう、…北山くん行きなさい、太輔をお願いね｣

相澤センセイはそう言って薄く笑うと、オレに中へ入れと目線で告げてきた

｢センセイ…｣
｢太輔が待ってるわよ、行きなさい、私なら大丈夫、この人は元フィアンセなの、だから心配しないで｣

フィアンセ…？この男が？



驚くことばかりだけど、こうしてる間にも太輔が目を覚ましてしまうかも…と思い、後ろ髪を引かれる思いで、オレはエントランスを通り抜けた…

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