雪華 … Snow Crystal ３

１０８話 ページ15

｢社長、んじゃお先に失礼します！｣
｢おお、気を付けて帰れよ…ほら、カミさんから太輔に渡してくれって、…また晩メシにも食え｣

笑顔でビニールの手提げを渡される

｢わ、めっちゃいい匂い…｣

デミグラスの香りがする
シチューかな…？

｢ハンバーグ好きだろ、お前一人暮らしだし、育ち盛りなのにマトモなモン食ってねぇんじゃないかって心配でな、コンビニ弁当ばっかりはダメだぞ｣
｢ありがとうございます！すっげぇ嬉しいです！｣
｢味はオレの保証付きだ、おにぎりも入ってるからな、夜食にでも食べればいい、今日もご苦労さん｣

｢お疲れ様でした！｣

頭下げてそのまま駅に向かう、腕時計に目をやるとけっこうギリギリ

｢わっ、やべ！電車間に合うかな｣

慌てて走り出すオレの前に、道を遮る様に黒のメルセデスが止まった

一目見ただけで一般の人が乗る仕様では無いのが分かる…おそらく乗っている人物は、オレがこの世で一番苦手なヤツ…


パワーウィンドウが降り、中から顔を出したのは

｢…松永…｣

｢太輔坊、もう電車間に合いませんよ、どうぞ…｣


普段なら悪態つけるオレだけど、この日の松永はいつもと違っていた
裏世界で昇りつめた人間特有の圧倒的な威圧感をオレに剥き出しにしてくる

｢…ッ！｣

唇噛んで後部座席に乗るなり、車は音もなく走り出した
ミラー越しに松永の切れ長の目が、オレを監視するように見てるのがわかる

｢…んだよ、見てんじゃねぇよ！｣

｢アナタという人は、ホントに何も分かってらっしゃらない様ですね…｣
｢なにが？｣

沈黙からの小バカにされてる様な物言いに、オレはキレそうになる

｢…お話は帰ってからです｣

ピシャリと遮られる、松永との沈黙の空間は吐き気を催すほど息苦しい

やがて車は自宅の駐車場に乗り入れ、オレは松永に背後を取られるようなカタチで部屋に入った

なんだか無言の圧力の言いなりになってる感に自分で腹が立ち、ソファにドカッと座り込み、射るような視線から顔を背けた

松永は、ワザとなのかオレの前に立ち、その長身からの圧迫感も加えて見据えていた

｢…太輔坊、目立つことはお控え下さいと申し上げましたがお忘れですか？｣

｢別に目立つことなんかしてねぇだろ、勤労青年してるだけだ、テメェにとやかく言われるようなコトじゃねぇよ｣

｢何の為に？生活に必要な金なら口座に入れております｣

確かに…渡された通帳には使い切れないほどの額面が印字されていた


けど…

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